J-POP レビューステーション

音楽の言語化をテーマに、J-POPの名曲やアーティストをレビューするブログです。

「SAY YES」は命の恩曲 ~発売30周年記念レビュー~

私がCHAGE and ASKAのファンになったきっかけは「SAY YES」だ。
その「SAY YES」が2021年7月24日で発売30周年を迎えた。

「SAY YES」が打ち立てた記録はすさまじい。平成最長の13週連続オリコン1位。
13週と言えば、91日間。CDが普及し、平成へ突入した時代に約3か月間もオリコン1位に留まり続けたのだから、それだけで史上最高の名曲と呼ぶに足る。

オリコン集計では売上282万枚。アルバムの発売をもっと遅らせていれば、軽く300万枚は超えていたはずだ。おそらく400万枚近い売り上げになっていたのではないだろうか。

「SAY YES」は、テレビドラマ『101回目のプロポーズ』の主題歌として起用され、ドラマも大ヒットした。
歌詞は、ハッピーエンドを予感させる内容なのだが、ドラマの脚本は、最初、バッドエンドになっていたという。しかし、視聴者から「2人を別れさせないで」という電話が殺到し、脚本をハッピーエンドに書き変えている。まさに伝説の名曲だ。

実を言うと、私は、『101回目のプロポーズ』を観ていない。
当時、高校生だった私は、心身に不調を抱えて、ドラマの視聴どころではなかったからだ。

小さな町の中学校から、大きな市の高校に進学した私は、テストの得点と有名大学合格成績がすべて、という偏った教育方針に馴染めず、過度のストレスを抱え込んだ。

また、小中学校の9年間、メンバーがずっと同じという田舎育ちだったので、高校で知人が1人もいないクラスに放り込まれて、友達の作り方すら分からなかった。
ストレスと孤立感で、私は、瞬く間に体調が悪化していき、食事さえ喉を通らなくなってしまった。

体調の悪化に加えて、数学のテストで赤点を取ってしまった私は、学校から帰ったらほとんど寝て過ごす生活に陥る。そして、ついには人生からドロップアウトしたい、という願望まで持つようになってしまったのである。

そんな中、年末がやって来た。音楽すら聴く余裕をなくしていた私だが、レコード大賞紅白歌合戦だけは毎年観ていたので、体調不良ながらその年もテレビの前に座った。

沈んだ気分でレコード大賞をぼんやり視聴していた私の耳に飛び込んできたのが、あの「SAY YES」と「はじまりはいつも雨」だった。

体中に電流が走るような衝撃。
心の奥から絞り出すような温かさと優しさがこもった歌声、聴く人々の心を揺さぶり、全身に浸透していくようなメロディー、優れた発想と比喩を散りばめた抒情詩のような歌詞。
音楽の授業ですら聴いたことがないような心地良い歌が流れてきた。

それとともに、今まで抱えていた心身の不調が和らいでいく感覚があった。
音楽は、盛り上がって楽しむもの、と思っていた私にとって、初めて音楽に癒される経験が加わったのだった。

2曲とも、今まで聴いてきた音楽の中で最高の楽曲だったが、特に「SAY YES」はCHAGE and ASKAのハーモニーの見事さが加わって、より引き込まれた。
Bメロとサビのハーモニーは、CHAGE and ASKAの声の相性の良さによって、1人で歌うよりも数倍の感傷を呼び起こしてくれる。

後から分析してみると、やはり「SAY YES」の魅力は、音楽史の中でも突出している。

当時、軽快なリズムの楽曲ばかりが流行している中、落ち着いた大人の雰囲気を持つ、ゆったりしたバラードがここまで大ヒットするのは異例だった。振り返れば振り返るほど、CHAGE and ASKAの存在の特別さが浮き彫りになる。

愛情溢れる雰囲気を作り出すピアノメインのイントロで既に魅了され、優しく歌い出す2人の歌声で、恋する男女の世界に入り込んでしまう。歌い出しのメロディーは、さほど趣向を凝らしてはないのに、ASKAさんの抜群の表現力によって極めて魅力的なメロディーに聴こえる。まるで魔法のような歌唱だ。

ASKAさんが日本語を柔らかく滑らかに歌い上げる歌唱は、細部にわたるまで琴線に触れる。
CHAGEさんの透き通った高音の響きも、突き抜けた心地良さがある。

作曲も、編曲も、最初から最後まですべてが心に響くメロディーだ。特にイントロは、十川知司さんの最高傑作とも言える出来栄えで、愛好者が多い。
サビの1オクターブ以上駆け上がっていく美しいメロディーも、他の追随を許さない。

しかも、楽曲全体を通じてメロディー量が半端なく多い。
1番だけとってみても、1小節単位で同じメロディーになっているのが「愛には愛で」と「何度も言うよ」の1か所しかない。他は、すべて異なるメロディーを配している。

2番のサビは、最後にCメロとも言える新しいメロディーが入ってきて、大サビでは最後のDメロとも言える新しいメロディーが入ってくる。
聴いても聴いても、飽きが来ないメロディーなのだ。
「SAY YES」が3か月間という長期に渡って1位を持続できたのも、うなずける。

私は、このレコード大賞の視聴をきっかけに、CHAGE and ASKAのファンになった。

そして、それまで生きる目的を失っていた私の、唯一の生きる目的が「CHAGE and ASKAの次の新曲を聴きたいから」となった。

彼らの次の新曲が出るまでは生きよう。その気持ちの連続のみで、私は、生き続けたのだ。

私は、CHAGE and ASKAの音楽に命を救われた。

その後、私は、徐々に健康を取り戻したが、2000年代に入ると、世間ではCHAGE and ASKAの音楽があまり語られなくなってしまった。

憂うべき事態だと感じた私は、自らファンサイトを運営して、CHAGE and ASKAの楽曲レビューをアップし始めた。
もちろん、そこには、CHAGE and ASKAの活動を盛り上げようという気持ちもあった。
しかし、それ以上に、私の命を救ってくれたCHAGE and ASKAの音楽を拡散すれば、全国のどこかで誰かが命を救われることもあるのではないか、という熱い想いがあった。

だから、私は、「ほとんど得にならないチャゲアスのサイトなんかやって、何の意味があるの?」とか「逮捕されたのに、まだ応援してるの?」と揶揄されても、動じなかった。

あの日の私と同じように、誰かがどこかで何気なくCHAGE and ASKAの音楽に触れて、耐えがたい苦悩や苦痛から解放されるかもしれない。
だから、私は、これからもCHAGE and ASKAの音楽を語り続けたい。

その気持ちは、これからもずっと変わらないと思う。

川崎鷹也「魔法の絨毯」レビュー

2021年の上半期最大のヒットと言えば、川崎鷹也さんの「魔法の絨毯」。
ストリーミングで人気1位、カラオケでも人気1位。

現時点でTikTokの再生数が2億7000万回以上、YouTubeの再生回数も4000万回以上を記録。
2021年最大のヒット曲となる可能性が高そうだ。

思えば、昨年、瑛人さんの「香水」がTikTokから火がついてYouTubeでも大ヒットし、社会現象になるほどのブームになった。
「魔法の絨毯」もヒットの仕方が「香水」とよく似ている。2年連続でこの国最大のヒット曲がSNS発信から、と言っても過言ではない。

スマホの普及によって、テレビやラジオからではなく、インターネットから新たな才能が出てくる時代になった。
相変わらず、大手事務所や力のあるメジャーレーベルの猛プッシュから世に出る才能もあるが、今後は、いろんな地方から個人発信で世に出る才能の方が増えていくだろう。

「魔法の絨毯」の歌の内容は、無名だった川崎鷹也さんの心境を反映した内容になっている。持っているものは何もなくて、あるのは愛情だけ。
私は、聴いていて、玉置浩二さんの名曲「メロディー」を思い浮かべた。あの曲は、何もない若者たちが集まって楽しく歌って過ごした時代を後から回想するストーリーだ。

「魔法の絨毯」では、主人公は、何もない若者だけど、恋人への想いだけは、誰よりもある。
だから、映画の主人公のように、自分にないほどの力で恋人を守りたい。魔法は使えないけれど。

アメリカ映画『アラジン』をサビの比喩に使っているところが秀逸で、大きなインパクトを持っていて、1度聴いたら忘れない。

楽曲の構成も、シンプルなメロディーのように感じるが、実際は、1番は静かなAメロからサビへ移り、2番は、アップテンポなAメロから、情熱的なBメロを経てサビへ移る。飽きさせない趣向が凝らされている。

さらに、時間とともに盛り上がって行く構成も、歌の世界にうまく聴衆を引き込んでいく。
そして、歌の内容にぴったりの、素朴で優しい歌声。

ヒットする要素が多数詰まった名曲である。

 

それでありながら、ギター1本でカバーできる手軽さもあって、様々な人々がカバーしている。

シンガーソングライター畑中摩美さんは、ギター弾き語り動画と、ギター講座動画を制作してくれている。


インターネット上で、まだまだ人気が広がりそうな「魔法の絨毯」。
下半期も大ヒットしそうである。

ASKAニューシングル「笑って歩こうよ」レビュー

きっとASKAさんのファンは、繊細な人が多い。
痛めた心、沈んだ心に寄り添ってくれる温もりと癒しを感じさせてくれる楽曲が数多くあるからだ。

「笑って歩こうよ」も、そんな楽曲である。

イントロ、Aメロ、Bメロと切ないメロディーが続く。
コロナ禍の中、先が見えない不安と孤独にさいなまれる感情を表現する。

私も、コロナ禍になってから、慣れないステイホームやテレワークで心身のバランスを崩し、さらには病気になって入院する羽目になってしまった。
この1年は、かなり心が沈んで、一体これからどうなってしまうんだろう、という不安しかなかった。

ASKAさんも、ライブツアーの残り2本が延期を経て中止になり、ライブ活動再開の目途も立たなくなり、きっと心が沈んでいたのだろう。

不安と孤独を吐露しながらも、サビでは、そういったものを丸め込んで「笑って歩こうよ」と促す。
その丸め込む「白い蝶々の羽根のカーテン」が懐かしさとともに、平穏で幸福な日常の象徴として、前向きな力を持って入ってくる。

このカーテンとともに、私の耳に残って離れないのが「悪い噂をされても黙って」というフレーズだ。

すぐに思い出したのがチャゲ&飛鳥時代の名曲「歌いつづける」。その中でASKAさんは「汚れた口の噂あるけど」というフレーズを使用している。
当時のASKAさんは、全身全霊で歌い続けることによって、噂を払拭しようとした。

その後も「月が近づけば少しはましだろう」では、いろんなことを言われて傷ついた心に対し、ベッドで朝から夜まで眠ることによって、払拭しようとした。

「Too many people」では、噂に耳をふさぎたくなって、自らの言葉で語らせてくれと叫んだ。

そんなASKAさんが今、噂なんて無視して「笑って歩こうよ」と歌っている。
コロナ禍で世界中が満遍なく沈んだ今、噂なんて、ごく些細な出来事にすぎない、という達観にたどり着いたのだろう。

前向きな考えと笑顔は、自らだけでなく、周囲にも好影響を与える。今、こういう時代だからこそ、笑顔の波及効果を広げて、社会を明るい方向へ変えていかなければならない。
そんな想いが繊細に伝わってくる名曲である。

なぜCHAGE and ASKA「PRIDE」は多くの人々を癒すのだろうか

私は、今週、ようやく社会復帰しました。
世間的には大変な病気ではなかったのですが、私にとっては結構大変な病気で、36年ぶりの入院・手術を体験しました。
もうカミングアウトしようと思い、その体験を今、小説化しております。

こうした体験の中、改めて音楽には助けられました。
巷では音楽療法という言葉があるとおり、音楽は、心身の回復に欠かせないな、と感じております。
さすがに、手術の日は、音楽のことなど頭から消えていましたが、翌日からの回復期になると無性に音楽が恋しくなりました。

本当に辛すぎるときは、音楽どころではなくなるのですが、その時期を通り過ぎると音楽が心身を癒してくれたり、回復する勇気をくれたりします。

そこで、思い出したのが、かつてテレビ番組『奇跡体験!アンビリバボー』で、CHAGE and ASKAの音楽が少女の難病を治したという話。

ASKAさんが以前、ブログで振り返っておられます。

ASKA BLOG「奇跡は自分が起こすものだ」

sp.fellows.tokyo

いろいろネットを見ている中、見つけたのがひすいさんの記事。
日々「PRIDE」を聴いていたら、症状が飛躍的に回復したそうで。

『ひすいのTEKUTEKU行くさ☆』奇跡が起きた Chage & ASKA の PRIDE を流しながら伊勢旅行へ ☆

ameblo.jp

私も、CHAGE and ASKAの楽曲の中で最も好きなのが「PRIDE」。
なので、日々このライブ動画を視聴しています。

CHAGE and ASKAの「PRIDE」(史上最大の作戦 THE LONGEST TOUR 1993-1994)

それにしても、病人を見舞う歌ではない「PRIDE」がどうして、こんなにも心身を癒してくれるのでしょうか。

言葉で解明するのは難しいのですが、挫折からの救いと勇気を与えてくれる曲なので、病気という一種の挫折から、回復しようとする人々の心に響くのかもしれません。

さらには、メロディーに乗せて歌われるフレーズの断片が共鳴を呼び起こすというのもあります。
「思うようには いかないもんだな」
「心の鍵を壊されても」
「何が真実か わからない時がある」
こういった断片的なフレーズが病気の心に、共感とともに優しく響いてくるのです。

歌は、実際に歌われている内容を超えて、様々な境遇の人々を癒すことができます。

その代表例が24時間テレビで毎年頻繁に歌われるZARD「負けないで」でしょう。

この曲は、夢を追う恋人を遠距離で応援する歌ですが、24時間テレビでは病気の人や障がいを持つ人、過酷なマラソンをする人などを応援する歌として歌われています。

こうやって、境遇も時代も超えて、脈々と歌い継がれて多くの人々を癒す歌こそ、名曲と呼ぶのでしょう。

 

『ASKA CONCERT TOUR 12>>13 ROCKET』レビュー

『ROCKET』と言えば、メジャーレーベルのASKAの集大成となった作品だ。
まさか、あのときには、こうなるなんて思ってなかったが、今思い返せば、『ROCKET』のあと、ASKAの活動期間は約3年半も空白となる。

今、このBlu-rayを視聴したら、きっと違和感があるんじゃないか。
そう思っていたものの、視聴してみると、全く違和感がない。
ASKAの歌声も、今とほとんど変わりないし、ASKAバンドのメンバーも全員同じだからだ。
まるで、あの3年半の空白がなかったかのように、ASKAの世界に入り込んでいける。

そして、ツアータイトルが『ROCKET』とくれば、1曲目は「UNI-VERSE」だ。
ペットボトルロケットを飛ばす光景に、小さな宇宙を描いたこの名曲は、自らの命と引き換えに地球を、そして人類を救った鉄腕アトムの愛と重ね合わせる。

主人公は、地上で空を見上げながら地球の明るい未来を願い、人の心の中に宇宙を感じて、未来へつながる愛の無限の可能性を信じる。
すべての人々が笑顔になれる楽曲なのだ。

続く2曲目は、メキシコ音楽とグループサウンズを融合させた独特の楽曲「SCRAMBLE」。
常に新しい音楽への挑戦を続けるASKAにふさわしい楽曲だ。

3曲目の「朝をありがとう」は、ポップなASKAを見せる。ASKAの歌に合わせて、藤田真由美と一木弘之のコーラス隊が繰り広げる振り付けは、軽快なリズムと見事に合致して観客を魅了する。ASKAの歌声が完全復活しているのも、この歌でよく分かる。

4曲目の「Girl」は、不倫を描いた楽曲と言われており、このライブ当時を想い返すと、いろいろ雑念が入ってくるところだ。
しかし、集中して楽曲の世界を堪能すると、妖艶な世界をASKAの歌唱と古川昌義のギターとクラッシャー木村のバイオリンが巧みに表現している。

5曲目の「歌の中には不自由がない」も、東日本大震災福島原発事故後の混沌とした社会状況を反映して描いている。
そして、強く感じるのは、現実の不自由さだ。この当時、ASKAは、かなり公私ともに現実生活に不自由を感じていたのだろう。
その後、すべての不自由を払拭して、新生ASKAが生まれるきっかけになった楽曲でもある。

6曲目の「birth」は、深層心理をさらけだすかのような説法に似た歌唱。この楽曲が発表されたとき、チャゲアスのイメージとの大きな違いに驚かされたものだ。
輪廻と運命の神秘を感じさせてくれる楽曲だ。

7曲目は、CHAGE and ASKAとして発表した「FarAway」のセルフカバー。
ASKAは、CHAGE and ASKAとして活動していた頃は、ソロ以外の楽曲を歌っていなかったが、CHAGE and ASKAの活動休止後は、徐々にCHAGE and ASKAの楽曲を増やしている。

このライブでもCHAGE and ASKAの楽曲を3曲披露している。
「FarAway」は、妖艶で神秘的な雰囲気と、2人でいながらも寂しさとためらいと、少しの危険を感じる詞がいい。禁断の恋を描いているという説もある。
遠くへ遠くへと日常から離れた場所である今に浸ろうとするライブには、ぴったりの楽曲である。

そして、8曲目の「はるかな国から」は、いじめられた少年の自殺を取り上げた作品。
描かれるのは、誹謗中傷に苦しむ人たちへのメッセージ。
どんなことがあっても、決して死んではならない。季節とともに服を着替えるように、生きやすい環境を見つけて、生きよう。
長い目で見れば、誹謗中傷は、一時的なものだし、逃げ道はあるのだから。
暗いニュースを題材にしながら、明るく前向きな楽曲に仕上げた名曲だ。

9曲目の「you&me」は、女性ボーカルを擁したライブでは、期待してしまう楽曲。
この曲をデュエットしてきた歴代の女性ボーカルに引けを取らない藤田真由美の愛らしく透き通った歌声は、この楽曲によく合う。

10曲目の「はじまりはいつも雨」は、言わずと知れたASKAの代表曲。今年の3月に発売30周年を迎えて、ファンからの発信で「#はじまりはいつも雨を語ろう」という企画が広がり、発売日の3月6日には、Twitterのトレンド入りを果たした。
雨の暗いイメージを大きく覆し、平成最大のヒット曲の呼び声が高い。いろんな角度から分析すると、J-POPの歴史さえ変えた名曲であることが明らかになってくるので、これからも多くの人々に愛され続けるのだろう。

11曲目の「冬の夜」は、私が最初に聴いたときに涙が溢れてしまった曲だ。
デビュー当時の楽曲をデビュー当時と同じような弾き語りで歌う。しかも、デビュー当時と同じ歌い方で。
歌声が完全に復活したおかげで、デビュー当時とそん色ない若さの声が出ている。

よくここまで声を戻してくれたものだ。
そう思ったら、涙が出てきたのだ。

この曲は、CHAGE and ASKAとして発表したものの、ASKAが1人で歌い上げており、実質ASKAのソロと言ってもいい。
当時、チャゲアスのライブ再開を宣言しながらも、ASKAは、その後はソロとしてやっていく決意を固めていたのだと思う。

12曲目の「水ゆるく流れ」は、全曲に続くゆったりとした曲調。川の水が緩やかに流れていく様子を表したかのようなメロディーとリズムだ。
仲間を生んでくれた親への追悼を音楽で見事に表現してくれている。その世界が涙を誘う楽曲だ。

そして、13曲目は「けれど空は青」。親友への愛情と激励を歌った、人気ナンバー1の名曲は、ライブでも圧倒的な存在感を持つ。

そこから、14曲目に正反対の楽曲「KicksStreet」を入れてくるところがASKAらしい。
変幻自在のステージは、1曲毎に大きく印象を変えながらクライマックスへと向かっていくのだ。

このライブツアー後、ASKAには薬物疑惑が取り沙汰されたが、私は、ASKAが直前のライブで「KicksStreet」を歌っているのだから、疑惑はデマに違いない、と信じていた。
その信頼は、はかなくも裏切られてしまったわけだが、ASKAも、このときは自らから薬物を遠ざけようともがいていた時期だったのかもしれない。

そこから15曲目は、また正反対の楽曲「LOVE SONG」を歌い上げる。CAHGE and ASKAの大ヒット曲で、ソロでも頻繁に歌っているので、ASKAがこれまで最も歌ってきた楽曲かもしれない。

先日のねとらぼ調査隊『CHAGE and ASKAの一番好きなシングルはなに?』アンケートでは、見事1位に輝いた。

当時のタテ乗りロック一辺倒の世間へのアンチテーゼであり、ファンへのラブソングでもあり、デビッド・フォスターの音楽を知って音楽観が大きく変わった楽曲でもある。

CAHGE and ASKAの楽曲を歌った後の16曲目は「L&R」。CHAGE and ASKAの活動休止時の心境を歌っている。別々の道を進みながらも、いつかまた2人でステージに並び立とうという想いを世間に伝えた。

その並び立つ瞬間がすぐ近くに迫っていただけに、その後の3年半の空白で、その瞬間が消失してしまったのも今となっては淡い思い出だ。

17曲目は、盛り上げ曲の「バーガーショップで逢いましょう」。
歌声が完全復活しただけに、コーラス隊やクラッシャー木村がステージ上を走り回って大いに盛り上がり、ライブは、一気に最高潮を迎える。

畳みかけるように18曲目は、ライブの盛り上げには欠かせない「晴天を誉めるなら夕暮れを待て」。
ASKAの歌声は、さらに迫力を増して、史上最高の出来栄えではないか、と言えるほどのステージを見せていく。

通常ならこの辺で「月が近づけば少しはましだろう」が来るのだが、このライブでは、ライブ本編のラストを飾るのは、当時の最新アルバムからの2曲。

僕の来た道」と「いろんな人が歌ってきたように」。

僕の来た道」は、2018年のライブ活動再開後もまだ歌ってない曲なので、現状では唯一のライブ音源。
私の中では、トップクラスに好きな楽曲だけに、映像化されて歓喜の極みだ。
まるで長詩を朗々と歌い上げているかのようなASKAの抒情と迫力は、唯一無二なので、その魅力が存分に味わえるこの曲は貴重だ。
この曲は、ASKA自身がのちにチャゲアスのことを歌っていることを明かした。おそらく、次、この楽曲を披露するのは、きっとチャゲアスが復活するときだろう。

本編のラストを飾るのは、「いろんな人が歌ってきたように」。ASKAは、今が一番いい、と体現するかのように、新しい曲をライブ本編のラストに持ってきた。
とても勇気がいるセットリストではあるが、ASKAが作り上げる新曲は、いつも自己ベストを更新するくらいの名曲に仕上げてくる。

この楽曲は、すべてのことは自分の心の持ち方次第であり、世の中への関わり方も自分の心にある愛次第なのだ、という普遍を描く。
まさに、ラストを飾るにふさわしいではないか。

本編が終わっても楽しみは続く。

カバーシリーズとして、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」。都会へ出た男性と、その男性を遠くで思う女性の想いを交互に歌った名曲。
のちに「no no darlin'」のモチーフになったという逸話もある。
数ある昭和の流行歌の中で、オリジナリティー溢れる楽曲の構成に目をつけるところがASKAならではだ。

アンコールのラストを飾るのは「同じ時代を」。テーマとしては、「UNI-VERSE」と共通点が多い楽曲だ。

当時は、東日本大震災直後だっただけに、同じ時代を共に生きる、という気持ちで国民が1つになった時期だった。
この楽曲を歌う前のASKAのMCからも、復興に向けて力になりたい、という気持ちが溢れている。
あれから10年がたって、今度はコロナ禍に見舞われた今、当時のライブ映像が再び大きな意味を持って迫ってくる。

今を生きる人々が後世に向けて残すべきもの、すなわち後世に誇れるものを、記録として、形としてしっかり残していこう。
そんな強いメッセージが感じられるのだ。

全編を視聴し終えてみると、やはり当時のASKAの集大成のライブだったと言わざるを得ない。

その後、予定していたチャゲアスのライブは消滅し、ASKAソロのライブ活動も3年半の空白を余儀なくされた。
もしそれらが無事に開催されていたとしたら、どんな現在を迎えていたか。

そんな実現しなかった、もう1つの未来を想像してみたくなった。

 

 

 

あいみょん「君はロックを聴かない」を聴いて「君」が誰かを考えてみた

「最近、めっきり音楽を聴かなくなったんだよね」
子ども2人を育てる知人がそう言っていた。
日々の生活に追われて、音楽を聴いている時間がとれないのだという。

衣食住と違って、音楽は、なくても生きてはいける。
「最近、めっきり食べ物を食べなくなったんだよね」
と、言う人はいない。食べなければ生きていくのは不可能だから。

衣食住以外の芸術やスポーツ、テレビやスマホ、パソコン、本なんかも、生きることだけが目的なら、なくても支障がない。
でも、なくてもいいものであったとしても、音楽があれば、人生が遙かに豊かになる。

 

どうしてそんな気持ちになったかと言えば、ASKAさんのFellows作詞作曲企画でお馴染み畑中摩美さんがあいみょんさんの「君はロックを聴かない」をカバーしたからだ。

「君はロックを聴かない」は、あいみょんさんがブレイクする前のシングルだ。
オリコン最高76位だが、あいみょんさんのブレイク後、世間から高く評価されるようになり、YouTubeだけでも約7000万回を記録している。

畑中摩美さんは、最近、あいみょんさんの弾き語りカバー曲を続々とYouTubeにアップして、人気急上昇中だ。ギターコードが分かるとともに、あいみょんさんの15年後は、こんな感じじゃないかな、と想像できる歌唱がいい。

「君はロックを聴かない」は、ロック好きな男性主人公がロックを聴かない「君」にロックを聴かせるストーリーだ。

音楽を聴く人でロックだけ聴かないって人は、ほとんどいないだろうから、「君」は、音楽自体に興味がないのだろう。

でも、男性は、子どもの頃からロックが大好きで、恋をして挫折したとき、いつもロックを聴いて乗り越えてきた。

だから、おそらく恋をして挫折をしている「君」に、自分が乗り越えてきたロックを聴かせて励ましたい。

ところで、「君」とはいったい誰なのか。

この曲は、あまりにもメロディーが素晴らしいので、歌詞を深く考えずに、ロック好きな男性からロックを聴かない女性へのラブソングの感覚で聴いていた。

しかし、歌詞に出てくるドーナツ盤は、いわゆるシングルレコード盤だ。
CDの登場とともに姿を消したシングルレコード盤を聴いていた世代だから、1980年代以前に青春を迎えていた男性が主人公なのだ。

とすると、子どもがそろそろ青春時代を迎える年齢。

しかも、ロックを聴かない子どもだから、男の子というよりは女の子の可能性がかなり高い。
男の子だったら「お前」と表現しそうなものだから、「君」は女の子の方がしっくりくる。

そう考えると、私がたどりついた結論が「君」は、男性主人公の思春期を迎えた実の娘となる。

男性の娘は、熱い恋をしていたものの、失恋してしまい、最近、少し寂しそう。
男性は、父親としてそんな娘が心配でならない。
そんなとき、男性は、自らが青春時代、ロックを聴いて失恋を乗り越えてきたことを思い出す。そして、今は、妻子がいて幸福を感じている。

だからこそ、男性は、青春時代の自分と同じように、娘にロックを聴いてもらい、元気を取り戻してほしい。
ロックがまるで恋人のように、いつも近くで寄り添ってくれることを知ってほしい。

男性は、娘がロックなんて聴かないことを知っていながら、子どもを想う親心を抑えられなくて、自らの失恋を癒してくれたロックのシングルレコード盤を取りだしてきて、娘に聴かせるのだ。

父親から娘への、あまりにも不器用で極上の愛情表現ソングではないか。

そこで、あいみょんさんのオリジナルバージョンを聴いてみる。

あいみょんさんは、若いので、軽く聴いていると父親が歌っているという想像をしにくいのだが、歌詞をしっかり覚えてから聴くと、父親が歌っているように聴こえてくるから不思議だ。

もしかしたら、これは、あいみょんさんの父親とあいみょんさんの実話なのかもしれないな、と思ってみたりする。

畑中摩美さんとあいみょんさんの「君はロックを聴かない」をそれぞれ聴きながら、いろいろ考えを巡らせて楽しめる「音楽」は、やはりある方がいい。

ASKA「君が愛を語れ」から見える湾岸戦争勃発直前の未来

「はじまりはいつも雨」が発売30周年を迎えて脚光を浴びる中、私は、カップリング曲の「君が愛を語れ」もよく聴くようになった。

2018年のベストアルバム『We are the Fellows』に向けたASKA楽曲人気投票では「はじまりはいつも雨」が3位、「君が愛を語れ」は5位。

今思えば、あのシングルは、奇跡のシングルだったと言っても過言ではない。

「君が愛を語れ」は、ASKAさんが湾岸戦争勃発直前に制作したと明かしている。

湾岸戦争時、私は、まだ中学生だったが、学校中でその戦争が話題になっていた。

「なんかゲームみたいだね」
隣の席の友人は、ニュースの印象をそう語っていた。

戦争を知らない子供だった私たちは、多国籍軍イラク空爆する映像をニュースで見ても、遠い国の出来事にすぎなかった。

1990年8月2日、イラククウェート侵攻
1990年11月29日、国連が武力行使容認を決議
1991年1月17日、多国籍軍イラクへ攻撃を開始し、湾岸戦争勃発
1991年3月3日、多国籍軍の勝利により暫定停戦協定締結

湾岸戦争自体は、わずか1か月半で終わった。

「はじまりはいつも雨/君が愛を語れ」のシングル発売が1991年3月6日だから、ASKAさんは、国連が武力行使を決めてから湾岸戦争が勃発するまでの間に「君が愛を語れ」を制作したのだろう。

結果論として湾岸戦争は、世界中に拡大しなかったが、戦争前は「もしかしたら第三次世界大戦に発展するかも」という恐ろしい噂が広まっていた。

時代と共に生きる感受性の強いアーティストたちは、そういった世界情勢からくる不安を作品で残してくれている。

ASKAさんは「君が愛を語れ」。CHAGEさんは「WINDY ROAD」。

当時は、世紀末にさしかかっていたこともあり、1999年で人類滅亡という、いわゆるノストラダムスの大予言も相変わらず信じる者も多かった。

そんな先行き不透明な世界情勢の中、生まれた「君が愛を語れ」は、自らが消え失せてしまうかもしれないという不安と孤独が強く感じられる。

最愛の人をずっと愛し続けたい気持ちを描いたラブソングなのに、不安の方が大きく上回っている。
そして、自らが無力で小さな存在であることを認めざるを得ない孤独に苦悩する。

歌詞に出てくる「聞き取れない愛の歌」「やりきれない愛の歌」は、直接的には海外のラブソングや、悲しい別れ歌を思い浮かべる。
しかし、比喩ととらえれば、海外のニュースや暗いニュースを指しているとも考えられる。

そうなると、「君」は、恋人というよりは、「聴衆」や「ファン」となるだろう。

そして「寒い五線紙の中」は、直接的にとらえれば、音楽を楽しめなくなってしまった自分たちを指すが、比喩ととらえれば、音楽さえ流れない戦時中と想像できる。

もし自らがいなくなっても、自らを知っている人たちが「愛」を語り、それらの人々がいなくなっても、「愛」を後世に語り継いでほしい。

この「愛」の中には、文字どおりの愛とともに、思想や作品、生き様といった様々な要素が詰まっているのだと思う。

ASKAさんが湾岸戦争勃発直前に描いた未来は、現在のコロナ禍から見る未来にも重なる部分が多い。

発売30周年にして、ますます存在感を増してきた「君が愛を語れ」は、やはり名曲中の名曲である。