J-POP レビューステーション

音楽の言語化をテーマに、J-POPの名曲やアーティストをレビューするブログです。

祝5周年!ASKA『君が、作詞作曲してみな!』企画の意義を考察

2017年8月2日。ASKAが突如としてYouTubeで公開した『君が、作詞作曲してみな!』は、瞬く間に全国で話題となった。そして、400曲を超える楽曲が生まれた。

 

当時、ASKAの活動主体は、まだYouTubeとブログ程度だった。

2014年から事件、謹慎、誤認逮捕と負の連鎖が続いたASKA。そこからようやく抜け出したのは、2016年12月24日にYouTubeで名曲「FUKUOKA」を発表してからだ。

あのとき、もはや再起不能と噂されていたASKAを救ったのは、世間体やメディアのコンプライアンスに左右されないYouTubeという舞台だった。

 

「FUKUOKA」は、公開後4日間で100万回視聴を突破。長期間、急上昇1位を走り続ける。人間以下の扱いを受ける堕ちた英雄から、復活した天才ミュージシャンへと評価を一変させた。
何もかもが異例だった。

当時は、まだYouTubeが今ほど、市民権を得ていなかった時代。カジサックがYouTubeチャンネルを開始して芸能人が大量に流入してくるのは、まだ1年以上先の話だ。

 

あのときYouTubeがなければ、ASKAがここまで鮮やかに復活できたかどうか・・・。
今となっては、ASKAこそ、不祥事を起こした芸能人がYouTubeで復活する道を切り拓いたパイオニアと言えよう。

「FUKUOKA」で復活を果たしたASKAは、2017年2月22日にニューアルバム『Too many people』を発表し、大ヒット。

 

この年2枚目のアルバム制作を行う過程で、YouTube上で公開した企画が『君が、作詞作曲してみな!』だった。

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イントロから1番が終わるまでの長さにまとまった編曲だけの音源。いわゆるワンコーラスのカラオケ音源だ。
後にそれは、ASKAと鈴川真樹による制作と分かるのだが、この時点では何も判明していない。メロディーや歌詞さえも分からない。

 

ASKAがこの曲につけたタイトルは「Fellows」。後にファンクラブ名称となるその曲名以外の情報はなかった。

ASKAは、動画の概要欄にこう記す。
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君のタイトルは何?メロディは、どうつける?歌詞もメロディも無限です。ここで君の作品となったこの楽曲に、君の歌として公開してみてください。楽しみです。タイトルには「ASKAのFellowsを、私が作ってみた」と、入れてください。
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私は、こんな奇想天外な企画をこれまで目にしたことはなかった。
普通なら、何もない状態から作詞作曲編曲をした楽曲を歌うか、既に完成した楽曲を歌うか、さもなくば何かテーマを提示されて楽曲制作するか。

 

この企画は、そのいずれでもなかった。
編曲が先にあって、それに曲名を付け、作詞作曲を加えて歌え、というのだ。

曲の長さ、リズム、進行が制限される中、作詞作曲・歌唱で自らのオリジナリティーを要求される。しかも、話題性はどんどん低下していくだろうから、制作期間は、短ければ短いほど有利だ。

つまり制限された公平な条件の下で、作詞力、作曲力、歌唱力、迅速な対応能力が試される過酷な企画でもあったのだ。

 

名の売れたミュージシャンにとっては、メリットよりリスクの方が大きい。

おそらくターゲットは、まだ名の売れていない、世の中に埋もれているミュージシャンたち。

 

ASKAは、才能や実力はあるが、まだ知名度が低いミュージシャンを世に出してあげようとしたのだ。スマホやカメラさえあれば誰もが公開できる公平な場所で。

 

今でこそ、その意義をこうして語っている私だが、当時は、そんなことも考えず、ほとんど期待せずに続々と公開される「ASKAのFellowsを、私が作ってみた」曲を視聴していた。

 

そして、ASKAが企画公開した翌日、ひときわ心に残る楽曲が出てきた。

小倉悠吾「ハイウェイ」

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まずは、歌声に魅かれた。高音の伸びと安定感、迫力とも、素晴らしく、ゆずやMr.Childrenを彷彿させる、と。

そして、ポップでありながら郷愁を誘うメロディーと、時空を往来しながら人生をハイウェイに例える詞。

わずか1日でこんな高いクオリティーの楽曲を生み出せるんだ・・・。私は、驚きとともに、小倉悠吾の他の楽曲も聴きたくなった。

 

この曲は、公開から驚異的なスピードで視聴回数を伸ばしていく。良いものが数値化される時代が来たのだ、と実感する出来事だった。

あれから小倉悠吾は、ASKAに才能を認められ、アルバム制作時にはASKAさんが監修をするなど、大きく環境が変わっていく。

 

現在も、ライブや配信などを精力的に行い、どんどんファンを増やしている。

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そして、8/8には私の音楽観を変える楽曲に出会うことになる。

 

畑中摩美「The One」

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大きな希望を前にして視野が一気に明るく開けてくる瞬間の気持ちの高ぶりを表現したメロディーと詞に引き込まれた。

こうやって自らの音楽を発表できる場を得た喜びと、理想の男性に巡り逢えた喜びを重ね合わせるような構成だ。

地声とファルセットを巧みに使いこなしながら、感情の機微を表現する歌声も絶妙である。

 

しかも、編曲に対するメロディーのアプローチがオリジナリティーの塊。この編曲から、このメロディーが生まれてくるというのは、想像がつかなかった。


だからこそ、企画公開から6日目の楽曲公開でありながら、畑中摩美の「The One」は、既に発表済みの楽曲群を視聴回数で抜き去っていった。

 

こんな素晴らしい才能が世に埋もれていたことが信じられなかった。

 

「The One」は、私がインディーズのミュージシャンを数千人聴きあさるきっかけとなり、優れた才能を世に出すサポート活動をするきっかけにもなった。メジャーしか聴かなかった私の音楽観を変えてしまったのだ。

 

ASKAがこの企画を行ったYouTubeチャンネル『Burnish Stone ASKA』は、2022/8/6現在、3.08万人。
一方、畑中摩美の公式Youtubeチャンネルは、3.16万人。

あの企画から5年で、ついに畑中摩美のチャンネルが本家を超えてしまう、という驚くべき事態にまで発展した。

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才能や実力はあるが、埋もれているミュージシャンたちを世に出す企画。

その企画は、今も尚、大きな意義を持ち続けている。