J-POP レビューステーション

音楽の言語化をテーマに、J-POPの名曲やアーティストをレビューするブログです。

名曲は、とりついて離れない ~Hump Back「拝啓、少年よ」レビュー~

飲食店や小売店舗にいるとき、BGMで流れてくる曲につい魅かれてしまうことがある。
気にせず通り過ぎようとしても、頭の中からそのメロディーと歌声が離れない。

そんな曲は、大抵、これから長年聴き続けるであろう名曲だ。

ときに、全く想定もしない場面で、そんな名曲に出くわす場合もある。

私は、先日、AbemaTVで格闘技の試合を観ていた。
当然、格闘技の試合だから、普通は格闘技以外に興味が移るはずがない。

しかし、この日は、違っていた。
ある試合で流れた曲に、私は、とりつかれてしまったのだ。

それは、田舎町の小さなジムから現れた小柄な有望キックボクサーAyaka選手の入場曲だった。

心地良いメロディーとリズム。パンチの効いた安定感ある歌声。

格闘技の試合自体も、キレのある動きと高い技術が交錯する名試合であったが、私の興味は、それ以上にAyaka選手の入場曲に移っていた。

私は、自らの持てる情報収集力を駆使して、その試合後、気になっていたその曲を調べた。

たどり着いたのがHump Backのシングル「拝啓、少年よ」。

どうやら2018年に発売となった曲で、オリコン最高13位のスマッシュヒットを記録していたらしい。

作詞作曲は、ボーカルを務める林萌々子。彼女は、シンガーソングライターとしての才能に満ち溢れている。

連絡がつかなくなった友人を思い出して作った楽曲だそうだ。

描くのは、大きな夢を描いていた青春時代の追憶。
少年が青春時代に描いた夢は、現実に跳ね返されてしまう。そして、少年は、挫折を繰り返し、怖さを覚える。

いつのまにか、大人になってしまった少年。でも、本当はまだ夢を追いかけたい。

そんな少年にこの歌は、問いかける。

少年よ。下を向いてばかりじゃなく、上を向いて行こう。空はあんなに綺麗だよ。

夢は、なかなかつかめなくても、生きる希望として、追い続けるプロセスにきっと幸せがある。自らが終わらせない限り・・・。

「拝啓、少年よ」は、そう、力強く背中を押してくれる名曲である。

JUJU 『奏(かなで)』レビュー ~波の音だけが伴奏の絶唱が圧巻~

YouTubeの急上昇ランキングに上がっていたので、何気なく再生したJUJU『奏』MV。
スキマスイッチの名曲として、誰もが知っているだけに、どんなカバーになっているのか、少し興味があった。

夕暮れの海辺を背景にJUJUが砂浜で裸足で歌い上げる。

ピアノとギター、ストリングスが切ない雰囲気を作り上げ、JUJUがソウルフルな歌唱で引き込んでいく。

ここまでは、私の想像どおり。

でも、急上昇に乗ってくるには、想像を超える何かがあるはず。

それが明らかになったのが大サビだ。

それまでの演奏が一切止まり、静寂の中に、打ち寄せる波の音だけが聴こえてくる。

その波音だけをバックに、JUJUが大サビを絶唱する。

おそらく、そこに描かれている詞の内容こそ、JUJUが今、最も伝えたい想いなのだろう。

愛しい人に出会えた感謝の想い。生きる世界さえ変えてくれるほど影響を与えてくれた人への愛情。

そこには、JUJUの三浦春馬への想いが詰まっていると言われている。

演奏なしで、ここまで歌声だけで、感情を多くの人々にストレートに伝えられる歌声。
あまりの素晴らしさに鳥肌が立った。

静かに打ち寄せる波の音がさらなる情感を呼び起こす。

海辺の映像、波の音、歌声。これらが三位一体となって、至高の音楽を響かせる。

今年観た中でも、トップクラスの映像作品であった。

 

 

ASKA『higher ground』ツアーBlu-rayレビュー

Fellowsの間で「神セットリスト」と呼ばれるほど、曲目が好評だった『higher ground』。
それとともに、ASKAバンドとビルボード・クラシックス・ストリングスが共演するという、新しい形のコンサート。

シンフォニックスタイルの『THE PRIDE』とバンドスタイルの『Made in ASKA-40年のありったけ-』。
この2つのコンサートが融合して、さらなる高みへ。

観る前から期待が高まるばかりだ。

セットリストは、CHAGE and ASKA8曲、活動再開前のASKAソロ6曲、活動再開後のASKAソロ8曲。
その配分からは、ASKA41年のありったけを表現しようという意図が感じられる。

Blu-rayを再生すると、いつものオープニングとは異なる始まり方。
まるでミュージカルが始まるのかと思わせるようなビルボード・クラシックス・ストリングスによる華麗な演奏から、ASKAによる「We Love Music」歌唱の挿入。

そこから、流れるように「僕はMusic」へ。
そういえば、この曲は、「歌になりたい」と極めて近いテーマの楽曲だ。この曲を1曲目に持ってくるところからして、ASKAは、自分=音楽がこのコンサートの裏テーマなのだろう。

テーマを歌い上げれば、次はポップな人気曲「HELLO」を披露。ポップスとクラシックが違和感なく融合するのだろうか、という私の心配を一瞬にして振り払ってしまうほど、違和感がない。

天気予報の恋人」は、今回のセットリストの中では最も古い楽曲だが、優しく甘いラブソングだけに、ストリングスのアレンジがとても映える。
15人のストリングスを擁しているだけに、今回の選曲は、ストリングスが映える楽曲を揃えているのだろう。

極上のポップスとバラードでつかみは充分とばかりに、ここから今のASKAを表現していく。
ファンクラブの名称でもあり、ASKAが呼ぶファンの愛称でもある「Fellows」というタイトルの楽曲だ。

ASKAは、かつて自らの内面の苦悩を「月が近づけば少しはましだろう」で吐露しているが、現在の苦悩を描いたのが「Fellows」だ。異なるのは、前者が内面の苦悩を自らの中に閉じ込めていたのに対し、後者は、ファンへの想いも込め、そして、苦悩の共有を図ろうとしているところだ。

様々な苦難をともにくぐり抜けてきた長年のファンへの信頼がこの楽曲には感じられる。

私も、数か月前、傷つく言葉を投げかけられ、横たわる自転車のような状態になったのだが、そのとき最も心に潤いを与えてくれたのがこの楽曲だった。今日は、聴きながらそれを思い出して目頭が熱くなってしまった。

続く「修羅を行く」は、批判や誹謗中傷が渦巻く社会で、寂しさと虚しさを感じながらも、試行錯誤を繰り返し、戦い続ける覚悟を描いた激情の楽曲。

そして、「しゃぼん」は、数年前の騒動で、世間や周囲から人間以下の扱いを受けた屈辱と絶望を描いた曲。絶望の淵で自分を見つめ直し、自らに訪れる幸せや苦しみとは一体何なのかを問い続ける魂の叫びだ。

清木場俊介は、ASKAの曲を聴いているだけで彼の人生が見えてくる、と評しているが、この3曲は、まさにそういうタイプの楽曲だろう。

MCを挟んで、一気に趣向を変え、ASKAの出世曲となった「はじまりはいつも雨」へ。この曲も、つくづくストリングスがよく似合う曲だなと思う。

続く「good time」は、今のASKAさんが作ったと言われても疑わないような楽曲。でも、もう20年前のシングル。大ヒットはしなかったけど、時代の先を行っていた楽曲と言えるのではないだろうか。

今回のコンサートでは、曲の前にMCで制作当時の心境や背景を語ってくれる場面が増えた。それがまた楽曲への感情移入を促し、楽曲の魅力を大いに引き出してくれる。

2009年のコンサートツアー『WALK』での「帰宅」は、鳥肌が立つほどの感動を覚えたものだが、今回の「帰宅」も、それに匹敵する感動がある。
この曲を歌う前には、やはり語りが必要。
ASKAが弱気になっていたという、他人から評価されない時期の苦悩は、誰しも共感できるものだ。

そして、「RED HILL」は、伝説の名演との評価が高い『alive in live』に近いアレンジ。今回は、ストリングスが重厚になって、当時とは違った迫力がある。

前半の最後を締めくくるのは、現在のASKAのテーマ曲とも言える「歌になりたい」。今回のライブでは、ASKAの発案により、聴衆がスマホライトによる「揺れるイルミネーション」を表現する。まるで街の夜景やホタルの舞のように見える光景は、壮観となった。

休憩タイムを挟んで、後半最初の曲は「you&me」。
SHUUBIの20周年ライブで『My Game is ASKA』でのデュエットを再現したところ、好評だったため、今回のセットリストにも入ったのだという。

SHUUBIと椅子に座って向かい合いながら歌うデュエット。私は、『My Game is ASKA』以来の鑑賞となる。
当時、SHUUBIは、必死な形相で一生懸命歌っていた印象が強いが、今回は、大人の余裕と色気がにじみ出て、本当の恋人同士が歌っているかのような微笑ましいデュエットになっている。

そして、チャゲアスブーム渦中にミリオンセラーとなった代表曲「HEART」。今回は、「SAY YES」も「YAH YAH YAH」も入れず、この曲を入れてきたところが引き出し豊富なASKAらしい。

しかも、Aメロの最初を静かな演奏の中でアカペラに近い歌唱で魅せる。そして、Bメロではマイクスタンドを回すパフォーマンス。
新しいアレンジやパフォーマンスに貪欲に挑戦する姿勢は、進化し続けるアーティストの鑑だ。

そこから、最新アルバム『Breath of Bless』に入る、発売前の新曲「百花繚乱」も披露する。
アルバムで幾度となく聴いた楽曲だが、ライブで聴くと、こんないい曲だったんだ、と変化する。いわゆるライブで化ける曲だ。ここまで迫真の情景が浮かぶ幻想的な雰囲気が作り出されるとは想像していなかった。
ストリングスの4人がステージの前に出てきて激しく妖艶に演奏。SHUUBIのコーラスも映えて、すさまじい熱気を感じる。

盛り上がってきたところで、ライブタイトル曲でもある「higher ground」。
クラシックによって、ダークなロックをどう表現するのか、興味深い楽曲であった。ギターを前面に出すのかと思いきや、イントロからストリングスが前面に出て、予定された日常をこなすだけの葛藤をダークな雰囲気で作り上げている。

それと対をなすかのような軽快なポップス「青春の鼓動」は、ストリングスを前面に出して明るい雰囲気を作り出すのかと思いきや、ギターが前面に出る骨太のサウンドに。ASKAバンドが前面に出ながらも、ストリングスと絶妙に融合して、盛り上がりが最高潮に。

最高潮に来たところで「今がいちばんいい」。
ASKAの音楽活動のポリシーと言ってもいいほどの楽曲。ストリングスとASKAバンドの融合も、ここにきて最高到達点の演奏で絡み合う。コーラスの2人もステージの前に出て、盛り上がる。一木弘行とSHUUBIの安定したコーラスは、長年培った技術でASKAの歌声と程よく融合する好相性だ。

そして、最高潮の余韻冷めやらぬ中、MCを挟んでASKAの苦悩が色濃く出た楽曲「Be Free」。ここまで弱気なASKAをさらけ出した楽曲は、それまでほとんどなかっただけに、最初に聴いたときは大きな衝撃を受けたものだ。
とはいえ、この楽曲がその後のASKAの楽曲の方向性を定めたとも言え、活動再開後は、自らの内面をさらけ出す楽曲が格段に増えた。
メロディーと詞があまりにも切ないので、サビのストリングスが感情を揺さぶり、涙が溢れそうになる。

本編ラストは、新曲の「We Love Music」。前回のライブでも新曲「歌になりたい」を本編ラストに持ってきたように、今回も、今が一番、を体現するかのように最新曲がラストを飾る。
イントロからASKAロングトーンで盛り上げ、サビではステージ上も、観客も手拍子をしながら、みんなで大合唱。当時は発売前の新曲でありながら、ここまで会場が一体となって盛り上がるなんて、奇跡的な光景だと思う。
このコンサートのメインテーマは「さらなる高みへ」ではあるが、裏のテーマとしては「自分=音楽」と、この楽曲が描く「私たちの音楽愛」でもある。

本編が終わった後には、それに匹敵するほどの感動がやってくる。
自らの音楽生活最大の転機となったロンドン移住を語った後、澤近泰輔のピアノをバックに歌い上げる名曲「一度きりの笑顔」。ライトを落として、自らと決して交わることのなかったロンドンの老婆の人生を語る歌声が情感を刺激する。

そして、ASKAが今この曲を歌わねばという意識で披露するという2曲。
CHAGE and ASKA不動の人気ナンバー1曲「PRIDE」と、壮大な楽曲「BIG TREE」。

「PRIDE」は、復活コンサート『THE PRIDE』の核となっていた楽曲でもあり、長年続く盟友澤近泰輔と初期に作り上げた楽曲でもある。
直接的には、失恋の痛手を描いた楽曲ながら、大きくは挫折から再起への希望と、自らの譲れない誇りを描く。
聴衆のそれぞれが自らの境遇と重ね合わせて、長年、多くの人々の支えになってきた名曲中の名曲だ。

そして、アンコールのラストに「BIG TREE」。このサプライズには多くのファンが驚いたことだろう。
心に育った木が揺らぎない姿として自らの夢の中に現れた光景を描く壮大な名曲。今こそ、歌うときなのだ。

思えば、この楽曲こそ、ASKAが作り上げた、クラシックとバンドが最高到達点で融合できるタイプのスケールを備えている。その先見をこのコンサートを観たすべての人々が感じたはずだ。

ASKAASKAバンドとビルボード・クラシックス・ストリングス。三位一体となった新しい試みは、私の想像以上の成功を見せてくれた。

最後に一言で、感想をまとめておきたい。

見たこともない新しい景色をありがとう。

ASKA新曲「僕のwonderful world」レビュー

今週は、ついに3週連続配信のラストを飾る新曲「僕のwonderful world」が発売となりました。
 ASKAさんの予告どおり「ジャジーな曲」ですね。全く違うタイプの3曲を立て続けに作り上げるASKAさんの振り幅の大きさには驚かされます。

e-onkyo「Weare」

www.e-onkyo.com


「僕のwonderful world」レビュー

落ち着いた雰囲気を持つ男性のすがすがしい朝の場面を切り取った作品だ。

ビルボードラシックスASKAバンドの融合したライブ『higher ground』の流れがあったからこそ出来上がったような印象がある。

ASKAは、この楽曲のモチーフをルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」と明かしている。「What a Wonderful World」は、ベトナム戦争の時代に、平和な世界を夢見て描いた楽曲。

一方、現在は、世界中がコロナ禍で苦しみ、沈んでいる時代。平穏な1年前が懐かしく感じられるほどである。
だからこそ今、ありふれた、すがすがしい朝に、素晴らしい世界を感じてしまう。
「僕のwonderful world」は、そんな今が詰まった歌だ。

ありふれた朝とはいうものの、楽曲に出てくる、起きる前に見ていた夢、そして、今を過ごす日々は、苦境や険しさがほのめかされている。
そこから、ASKAならではの巧みな比喩で、希望を描き上げる。

ASKAは、近年、こういったジャズをベースにした楽曲を時おり制作している。この楽曲を聴いて、「思い出すなら」が最初に浮かんだ。
「思い出すなら」は、夜の世界で、「僕のwonderful world」は、朝の世界。
なのに、つながりを感じてしまった。穏やかな情景を描いている共通点からだろうか。

「僕のwonderful world」は、心が穏やかになるようなストリングスとピアノの演奏が全編に渡って癒しの効果を生み出している。情感豊かなイントロとアウトロをしっかり作り上げ、歌の伴奏でも鮮明な景色を浮かび上がらせる澤近泰輔の編曲が素晴らしい。

この主人公が朝の情景に希望を見た光。カーテンの隙間からだろうか。差し込んできて、腕にリボンをかけたようなその光に、私も、現在の閉そく感からの道しるべを感じずにはいられない。

ASKA新曲「自分じゃないか」レビュー

ASKAさんの3週連続新曲リリースの2曲目「自分じゃないか」が昨日、発売となりました。
ASKAさんが「ライブでひとつになれる曲」と明かしていた曲です。
これは、ライブの最高潮で披露される楽曲になっていくでしょうね。

e-onkyo「Weare」 ASKA「自分じゃないか」

www.e-onkyo.com


ASKA「自分じゃないか」レビュー

「自分じゃないか」は、前曲「幸せの黄色い風船」に引き続いて、新型コロナウイルス感染拡大中の世相を反映した楽曲だ。

国は、緊急事態宣言の外出自粛をはじめとして、国民に新たなルールを押し付けようとしてくる。

私は、化学物質アレルギーで10年ほど前から建物の中では基本的にマスクをしている。
そのため、仕事の打ち合わせや店では、理由を説明しないと嫌な顔をされたりすることもあったが、今年に入ってからは、その価値観が180度変わってしまった。マスクをするのがマナーへと。

逆にマスクをしてない人が嫌な顔をされ、理由を説明しなくちゃいけない。
世間の常識なんて、たった1つの出来事だけで、いとも簡単に覆ってしまう。そんな経験を私たちは、今まさにしているのだ。

マスクは、ほんの一例にすぎないが、全国の様々な分野でパラダイムシフト(価値観の劇的な変化)が起きている。

音楽も、例外ではなく、ライブは、大勢の観客と一緒に楽しむものであったはずなのに、今は、無観客配信でチャットをしながら楽しむもの、に変貌した。

ASKAは、10年後、20年後の世界を常に想定しながら考えを巡らせている人で、音楽業界でも一歩先のスタンダードを次々と作りだしてきた。

そのため、今回の新型コロナウイルス禍中も、VRのMV有料配信という新たな試みを行おうとしている。

ASKAは、自由なDADAレーベルを立ち上げたことからも分かるとおり、押し付けられた価値観に常に疑問を持ち、自らが新たな価値観を創造しようと試みることも多い。

「自分じゃないか」は、まさにその理念を歌いあげた楽曲だと思う。

イントロと歌い出しを聴くと、少しダークなダークなロックである。
現在の沈み込んだ社会を反映しているかのように。

堀江貴文は『今の「常識」は、フィクションでしかない』と断言しているように、ASKAもまた、今の常識を信じる危うさを語りかけるように歌う。

そのままダークなサビになるのかと思いきや、サビでは一気に爆発的な発散が起きる。
サビで描かれるのは「七つの星」。
地球を取り巻く太陽系の惑星を指すのだという。
水星、金星、火星、木星土星天王星海王星

サビのスケールは、もはや宇宙規模にまで発展している。
宇宙規模で見ると、地球だけがいつも迷走しているように見える。

どうしても変えられない宿命、自然環境、他人。

想定外の事態が起きたとき、対処するのは結局自分なんだ。
そんな強い達観が伝わってくる。

1番と2番の間は、コーラスが間奏のメインとなり、2番ではAメロが1番とは全く別の歌のようにメロディーを変えて、力強さと明るさを増している。

そして、この曲には、ASKAの代名詞とも言える明確なCメロがない。2番のサビの最後に「自分じゃないか」を繰り返すところがCメロと呼べなくもないが、いつものCメロとは大きく異なる。
むしろCメロを担っているのは、間奏の自分を高揚されるかのようなメロディーだろう。

そして、大いに盛り上がる大サビの後、アウトロの演奏がない。ASKAの歌声で楽曲が終わるのだ。

アウトロがないため、最後のフレイズ「自分じゃないか」がずっと強く耳に残り続ける。ASKAの最近の楽曲で言えば「それでいいんだ今は」が記憶に新しい。
極めて効果的に、「自分じゃないか」というフレイズを使っている。

ASKAは、2012年に楽曲「いろんな人が歌ってきたように」で「すべては自分さ」「自分次第さ」と歌っている。
そのテーマが今回の「自分じゃないか」に受け継がれているように感じる。

「Fellows」と「月が近づけば少しはましだろう」。「愛温計」と「はじまりはいつも雨」。

ASKAは、しばしば過去の楽曲のテーマを受け継いで、そのときそのときの時代に適応した音楽を作り上げていく。

この楽曲は、ASKAが「いろんな人が歌ってきたように」から8年を経て、今の世相に合わせてテーマを引き継いだと言えるだろう。

すべては自分に行きつく。ロックでありながら、哲学的な響きさえ感じられる名曲である。

ASKA待望の新曲「幸せの黄色い風船」レビュー

 e-onkyo「Weare」 ASKA「幸せの黄色い風船」

www.e-onkyo.com

新型コロナウイルスが日本で感染拡大し始めてから、一気に世間の価値観が変わってしまった。

当たり前だったことが当たり前でなくなり、すさまじい勢いでオンライン化が進んでいく。

得たものも大きいが、失ったものも大きい。人と人の触れ合いが極端に減少し、接客が必要な業種が苦境に陥っている。

音楽業界も、まさにその1つだ。

ASKAは、自らとファンの境遇に重ねていく。
CHAGE and ASKAとTUG of C&Aの境遇から、ASKAとFellowsの境遇へ。
ASKA自身も、メジャーからインディーズへ、既婚から独身へ。

なんか今、世の中が僕たちの真似をしているみたいだね、と。

だからこそ、今必要なのは「ロマン」だ。と、ASKAは、歌う。
人々の心が沈んでいるからこそ、明るく前向きな気持ちで夢を持つことが大切だ。
そうすれば、打開する道は開けてくる。

だって、ASKAとFellowsは、もはや立ち直れないのではないか、と思えた境遇から、鮮やかに立ち直ったじゃないか。

この曲で描かれる主人公の発想は、常にポジティブだ。
たまたま見た時計の時間が昨日と同じだったら、そこに幸せを感じる。芽生えた愛に永遠を感じる。

そして、みんなで幸せの黄色い風船を空に向けて放ち、新しい幸せを感じようじゃないか、と扇動するのだ。
「黄色い風船」は、おそらくアメリカ民謡「黄色いリボン」や日本映画『幸せの黄色いハンカチ』によって、黄色が幸せを願う象徴となっているのが起源だろう。

私は、この楽曲を聴きながら、「みんなで幸せになりたいね」と歌った名曲「世界にMerry X'mas」の理念を思い起こした。
ASKA独特の甘く優しいラブソングの歌い回しでありながら、壮大な人類愛を歌いあげているからだ。

そして、Cメロにレゲエを取り入れて、強く印象づけているのも聴きどころ。時計から得た幸福と、自らが想起したおとぎ話を膨らませながら、実際に膨らませる黄色い風船と掛けている。

早くコロナ禍を克服し、世界中のみんなが幸せになろうよ

「歌は世につれ世は歌につれ」

人類愛を歌ったこの楽曲が連鎖するように世界中に広がり、幸福が広がることを願っている。

【ネタバレ】Chage初の単独オンラインライブ『君に逢いたいだけ』レポ

Chageさんのオンラインライブレポを書きました。
全曲ネタバレしておりますので、未視聴でこれからアーカイブをご覧になられる方は、ご注意ください。
-------------------------------------------

2020年9月5日に開催となった、Chage初の単独オンラインライブ『Chage Online Live 2020 ~君に逢いたいだけ~』。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、Chageは、今年、まだライブを開催できていなかった。

現状、大規模ライブは、
開催不可能。小規模のライブでも、クラスターが発生すると、アーティスト活動に大きなダメージを負うから開催は困難。
当面の間は、ライブを開催するならオンラインライブをせざるを得ない。

60代のアーティストが時代の変化に対応できるのか。
私の最大の心配は、そこだった。

しかし、Chage初の単独オンラインライブを視聴して、すぐ杞憂だと安心した。
今年、川島ケイジのオンラインライブに2度出演したChage
Chageフェスで見い出した川島ケイジのmahocastオンラインライブにゲスト出演を果たしたきっかけから、Chage自身も、mahocastオンラインライブを開催する流れができた。
巡り合わせとは不思議なものである。

Chageのオンラインライブは、土曜日の20:30開始。
仕事をしている人でも、大抵は帰宅して視聴できる時間帯だ。

オンラインライブのありがたさは、ライブ会場に行かなくていいところ。
しかも、Chageがアップで映るから、最前列の気分で観られる。
そして、視聴者が音量を調節できるところ。大音量が苦手な私は、これが一番うれしい。

開演前にmahocastに接続すると、ライブ前のSEとして「終章」が流れている。
「開演前なのに、終章か」
とファンに突っ込ませるところがChageライブの醍醐味だ。

20:30開演。
ボーカル・ギターChage、キーボード力石理江、ギターKBの3人構成。
Chageの細道』やディナーショーの流れを組む、最小構成のアコースティックライブスタイルである。

今日は、静のChageを堪能できそうだ。

しかも、Chageは、ライブ会場にこだわり、チャゲアス時代からレコーディングで使用してきたスタジオを選んだ。このスタジオでは、チャゲアス時代から現在に至るまで、数々の名曲を制作してきたのだという。

ライブの開始早々、Chageは、チャットで視聴者との掛け合いを始める。
この軽妙さが多くのファンから愛される所以だ。

しかし、歌に入れば、Chageは、一転してアーティストの顔を見せる。
いきなりCHAGE and ASKAの名曲「Reason」。
チャゲアスをこよなく愛するChageの想いが伝わってくる。

そして、2曲目は、「アイシテル」。
ライブタイトルが『君に逢いたいだけ』となっているだけに、歌詞に似たフレイズがある「アイシテル」だけは絶対に披露されると感じていた。
チャゲアスへの想いを伝えた後は、ファンへの想いを伝える。
よく練り込まれたセットリストである。

そして、3曲目は、「SAY YES」のカップリング曲にして、「SAY YES」と並ぶ名曲との評価も高い「告白」。
原曲とは大きく異なるアレンジが施されていて、イントロでは本当に「告白」なのかと疑いかけたが、後半にかけては情感たっぷりの感動的アレンジへ。
トリッキーさと温かい情熱が融合する力石理江の演奏が光る。

4曲目は、Chageの原点とも言える楽曲「終章」。1980年のデビューアルバム『風舞』バージョンのアレンジで披露。このアレンジを手掛けたのが、稀代の名プロデューサー瀬尾一三
これが5曲目への伏線となる。

5曲目は、ついに予告のあった新曲「君に逢いたいだけ」。まさか新曲がライブのタイトルになっていた、とは想定外だ。
しかも、この曲のアレンジを手掛けたのが瀬尾一三。今では中島みゆきのプロデューサーとして有名な瀬尾だが、初期のチャゲアスのヒット曲群は、編曲家瀬尾の功績でもある。

Chageの原点の楽曲と、最新の楽曲がともに瀬尾一三のアレンジ。それを連続で披露する演出が感慨深い。

「君に逢いたいだけ」は、若き日々の友への追憶と明日への希望を描く楽曲の内容を大きく増幅させてくれるアレンジだ。

若い頃、無邪気で、自由で、夢を持ち、友と笑い合った日々。
しかし、今は、友人とは疎遠になり、若い頃の無邪気さも自由も夢も霞んでしまっている。

だからこそ、明日を変えたい。友に逢いたい。

私は、優しくも切なく響くChageの歌声とメロディーを聴きながら、Chageチャゲアスへの想いも重ねてしまった。
きっとこの曲は、Chageの代表曲となっていくだろう。


5曲目が終わると、換気タイム。
新型コロナウイルス感染拡大中の時代を象徴する休憩時間である。

とはいえ、その換気タイムを利用してChageは、別室で視聴者とのチャットを楽しむ。
このライブでは、約2000人の視聴者が同時接続でチャットに参加。ChageのMC中は、チャットが流れまくって画面フリーズが良く起こっていた。

Chage自身の画面も固まってしまい、「ふじわらのかたまり(藤原鎌足<かまたり>)」とボケるものだから、画面の前で爆笑してしまった。
画面フリーズまで笑いに変えて、視聴者を楽しませるChageは、さすがのエンターテイナーである。

Chageと視聴者のチャットが終わると、全員でMV「たった一度の人生ならば」鑑賞。できれば映像をバックに歌ってほしかったものだが、そこまで望むのは贅沢というものだろう。


MV鑑賞の次は、いよいよ第2部へ。

6曲目としてChageの代表曲でもあり、チャゲアスの代表曲でもある「NとLの野球帽」を披露。Chageの幼少時代への憧憬とともに故郷への憧憬を感じられるこの楽曲は、視聴者自身の幼少時代や故郷への憧憬を呼び起こす名曲だ。

もはや、オールタイムベストのセットリストとなってきた。

そして、7曲目は、季節柄外せない「夏の終わり」。続く8曲目の「Mimosa」、9曲目の「あきらめのBlue Day」と進むにつれ、演奏者である力石理江とKBの存在感が大きさを増していく。
力石理江のトリッキーさと、表情や全身でギター演奏を表現していくKBの癖の強さがどんどん前面に出てくるのだ。
Chageのライブメンバーは、本当に個性派プレイヤー揃いである。

こういう静のライブで「あきらめのBlue Day」を披露するのは、サプライズだった。
Chageは、この日、終始椅子に座っての歌唱となったが、この楽曲は、椅子から立ち上がらんばかりの勢いと盛り上がりを見せた。

本編ラストを飾る10曲目は、「光の羅針盤」。CHAGE and ASKAの最新アルバム『Double』の収録曲でもあり、2015年のChageのアルバム『hurray!』の収録曲でもある。
恋を航海にたとえて無限の愛を表現したこの楽曲は、航海の情景が浮かぶとともにスケールの大きな人間愛を感じさせてくれる。

本編終了後、チャットのアンコールに応えて、アンコール曲も披露。
そういえば、この日は、まだMULTI MAXの楽曲を1曲も披露してなかったのだった。
MULTI曲なしで終わるのかと思いきや、アンコールでついにMULTIMAXの人気曲「Well,Well,Well」披露。バンドライブでの盛り上げ曲をアンコールで持ってくる演出が粋だ。

まあまあ、何とかなるさ。一度きりの人生を楽しもうよ。

そう軽妙に歌い上げる旅人Chageの歌唱は、日常のストレスから解放してくれる。

アンコール曲が終わると、オンラインライブの接続も終了して、一気に日常に引き戻される。

しかし、今回のオンラインライブは、これで終わりではなかった。
Chappy(Chageファン)たちが考案したサプライズ裏企画があった。
ライブ終了後にTwitterで、Chage宛に紙飛行機画像と「#紙飛行機飛ばしマホ」「#chagekimi」「#君に逢いたいだけ」を贈ろう、と。

私たちは、ライブ終了後、Twitterに流れる無数の紙飛行機画像と、Chageへのメッセージで、ライブの余韻を楽しんだ。

オンラインライブ『君に逢いたいだけ』は、新たなライブ形式の可能性を幾度となく感じられた名ライブとなった。
おそらく将来、伝説として語られるライブになるにちがいない。

Chageオンラインライブ『君に逢いたいだけ』セットリスト
1.Reason
2.アイシテル
3.告白
4.終章~エピローグ~
5.君に逢いたいだけ(新曲)
6.NとLの野球帽
7.夏の終わり
8.Mimosa
9.あきらめのBlue Day
10.光の羅針盤
アンコール:Well,Well,Well