J-POP レビューステーション

音楽の言語化をテーマに、J-POPの名曲やアーティストをレビューするブログです。

「SAY YES」は命の恩曲 ~発売30周年記念レビュー~

私がCHAGE and ASKAのファンになったきっかけは「SAY YES」だ。
その「SAY YES」が2021年7月24日で発売30周年を迎えた。

「SAY YES」が打ち立てた記録はすさまじい。平成最長の13週連続オリコン1位。
13週と言えば、91日間。CDが普及し、平成へ突入した時代に約3か月間もオリコン1位に留まり続けたのだから、それだけで史上最高の名曲と呼ぶに足る。

オリコン集計では売上282万枚。アルバムの発売をもっと遅らせていれば、軽く300万枚は超えていたはずだ。おそらく400万枚近い売り上げになっていたのではないだろうか。

「SAY YES」は、テレビドラマ『101回目のプロポーズ』の主題歌として起用され、ドラマも大ヒットした。
歌詞は、ハッピーエンドを予感させる内容なのだが、ドラマの脚本は、最初、バッドエンドになっていたという。しかし、視聴者から「2人を別れさせないで」という電話が殺到し、脚本をハッピーエンドに書き変えている。まさに伝説の名曲だ。

実を言うと、私は、『101回目のプロポーズ』を観ていない。
当時、高校生だった私は、心身に不調を抱えて、ドラマの視聴どころではなかったからだ。

小さな町の中学校から、大きな市の高校に進学した私は、テストの得点と有名大学合格成績がすべて、という偏った教育方針に馴染めず、過度のストレスを抱え込んだ。

また、小中学校の9年間、メンバーがずっと同じという田舎育ちだったので、高校で知人が1人もいないクラスに放り込まれて、友達の作り方すら分からなかった。
ストレスと孤立感で、私は、瞬く間に体調が悪化していき、食事さえ喉を通らなくなってしまった。

体調の悪化に加えて、数学のテストで赤点を取ってしまった私は、学校から帰ったらほとんど寝て過ごす生活に陥る。そして、ついには人生からドロップアウトしたい、という願望まで持つようになってしまったのである。

そんな中、年末がやって来た。音楽すら聴く余裕をなくしていた私だが、レコード大賞紅白歌合戦だけは毎年観ていたので、体調不良ながらその年もテレビの前に座った。

沈んだ気分でレコード大賞をぼんやり視聴していた私の耳に飛び込んできたのが、あの「SAY YES」と「はじまりはいつも雨」だった。

体中に電流が走るような衝撃。
心の奥から絞り出すような温かさと優しさがこもった歌声、聴く人々の心を揺さぶり、全身に浸透していくようなメロディー、優れた発想と比喩を散りばめた抒情詩のような歌詞。
音楽の授業ですら聴いたことがないような心地良い歌が流れてきた。

それとともに、今まで抱えていた心身の不調が和らいでいく感覚があった。
音楽は、盛り上がって楽しむもの、と思っていた私にとって、初めて音楽に癒される経験が加わったのだった。

2曲とも、今まで聴いてきた音楽の中で最高の楽曲だったが、特に「SAY YES」はCHAGE and ASKAのハーモニーの見事さが加わって、より引き込まれた。
Bメロとサビのハーモニーは、CHAGE and ASKAの声の相性の良さによって、1人で歌うよりも数倍の感傷を呼び起こしてくれる。

後から分析してみると、やはり「SAY YES」の魅力は、音楽史の中でも突出している。

当時、軽快なリズムの楽曲ばかりが流行している中、落ち着いた大人の雰囲気を持つ、ゆったりしたバラードがここまで大ヒットするのは異例だった。振り返れば振り返るほど、CHAGE and ASKAの存在の特別さが浮き彫りになる。

愛情溢れる雰囲気を作り出すピアノメインのイントロで既に魅了され、優しく歌い出す2人の歌声で、恋する男女の世界に入り込んでしまう。歌い出しのメロディーは、さほど趣向を凝らしてはないのに、ASKAさんの抜群の表現力によって極めて魅力的なメロディーに聴こえる。まるで魔法のような歌唱だ。

ASKAさんが日本語を柔らかく滑らかに歌い上げる歌唱は、細部にわたるまで琴線に触れる。
CHAGEさんの透き通った高音の響きも、突き抜けた心地良さがある。

作曲も、編曲も、最初から最後まですべてが心に響くメロディーだ。特にイントロは、十川知司さんの最高傑作とも言える出来栄えで、愛好者が多い。
サビの1オクターブ以上駆け上がっていく美しいメロディーも、他の追随を許さない。

しかも、楽曲全体を通じてメロディー量が半端なく多い。
1番だけとってみても、1小節単位で同じメロディーになっているのが「愛には愛で」と「何度も言うよ」の1か所しかない。他は、すべて異なるメロディーを配している。

2番のサビは、最後にCメロとも言える新しいメロディーが入ってきて、大サビでは最後のDメロとも言える新しいメロディーが入ってくる。
聴いても聴いても、飽きが来ないメロディーなのだ。
「SAY YES」が3か月間という長期に渡って1位を持続できたのも、うなずける。

私は、このレコード大賞の視聴をきっかけに、CHAGE and ASKAのファンになった。

そして、それまで生きる目的を失っていた私の、唯一の生きる目的が「CHAGE and ASKAの次の新曲を聴きたいから」となった。

彼らの次の新曲が出るまでは生きよう。その気持ちの連続のみで、私は、生き続けたのだ。

私は、CHAGE and ASKAの音楽に命を救われた。

その後、私は、徐々に健康を取り戻したが、2000年代に入ると、世間ではCHAGE and ASKAの音楽があまり語られなくなってしまった。

憂うべき事態だと感じた私は、自らファンサイトを運営して、CHAGE and ASKAの楽曲レビューをアップし始めた。
もちろん、そこには、CHAGE and ASKAの活動を盛り上げようという気持ちもあった。
しかし、それ以上に、私の命を救ってくれたCHAGE and ASKAの音楽を拡散すれば、全国のどこかで誰かが命を救われることもあるのではないか、という熱い想いがあった。

だから、私は、「ほとんど得にならないチャゲアスのサイトなんかやって、何の意味があるの?」とか「逮捕されたのに、まだ応援してるの?」と揶揄されても、動じなかった。

あの日の私と同じように、誰かがどこかで何気なくCHAGE and ASKAの音楽に触れて、耐えがたい苦悩や苦痛から解放されるかもしれない。
だから、私は、これからもCHAGE and ASKAの音楽を語り続けたい。

その気持ちは、これからもずっと変わらないと思う。