J-POP レビューステーション

音楽の言語化をテーマに、J-POPの名曲やアーティストをレビューするブログです。

『ASKA CONCERT TOUR 12>>13 ROCKET』レビュー

『ROCKET』と言えば、メジャーレーベルのASKAの集大成となった作品だ。
まさか、あのときには、こうなるなんて思ってなかったが、今思い返せば、『ROCKET』のあと、ASKAの活動期間は約3年半も空白となる。

今、このBlu-rayを視聴したら、きっと違和感があるんじゃないか。
そう思っていたものの、視聴してみると、全く違和感がない。
ASKAの歌声も、今とほとんど変わりないし、ASKAバンドのメンバーも全員同じだからだ。
まるで、あの3年半の空白がなかったかのように、ASKAの世界に入り込んでいける。

そして、ツアータイトルが『ROCKET』とくれば、1曲目は「UNI-VERSE」だ。
ペットボトルロケットを飛ばす光景に、小さな宇宙を描いたこの名曲は、自らの命と引き換えに地球を、そして人類を救った鉄腕アトムの愛と重ね合わせる。

主人公は、地上で空を見上げながら地球の明るい未来を願い、人の心の中に宇宙を感じて、未来へつながる愛の無限の可能性を信じる。
すべての人々が笑顔になれる楽曲なのだ。

続く2曲目は、メキシコ音楽とグループサウンズを融合させた独特の楽曲「SCRAMBLE」。
常に新しい音楽への挑戦を続けるASKAにふさわしい楽曲だ。

3曲目の「朝をありがとう」は、ポップなASKAを見せる。ASKAの歌に合わせて、藤田真由美と一木弘之のコーラス隊が繰り広げる振り付けは、軽快なリズムと見事に合致して観客を魅了する。ASKAの歌声が完全復活しているのも、この歌でよく分かる。

4曲目の「Girl」は、不倫を描いた楽曲と言われており、このライブ当時を想い返すと、いろいろ雑念が入ってくるところだ。
しかし、集中して楽曲の世界を堪能すると、妖艶な世界をASKAの歌唱と古川昌義のギターとクラッシャー木村のバイオリンが巧みに表現している。

5曲目の「歌の中には不自由がない」も、東日本大震災福島原発事故後の混沌とした社会状況を反映して描いている。
そして、強く感じるのは、現実の不自由さだ。この当時、ASKAは、かなり公私ともに現実生活に不自由を感じていたのだろう。
その後、すべての不自由を払拭して、新生ASKAが生まれるきっかけになった楽曲でもある。

6曲目の「birth」は、深層心理をさらけだすかのような説法に似た歌唱。この楽曲が発表されたとき、チャゲアスのイメージとの大きな違いに驚かされたものだ。
輪廻と運命の神秘を感じさせてくれる楽曲だ。

7曲目は、CHAGE and ASKAとして発表した「FarAway」のセルフカバー。
ASKAは、CHAGE and ASKAとして活動していた頃は、ソロ以外の楽曲を歌っていなかったが、CHAGE and ASKAの活動休止後は、徐々にCHAGE and ASKAの楽曲を増やしている。

このライブでもCHAGE and ASKAの楽曲を3曲披露している。
「FarAway」は、妖艶で神秘的な雰囲気と、2人でいながらも寂しさとためらいと、少しの危険を感じる詞がいい。禁断の恋を描いているという説もある。
遠くへ遠くへと日常から離れた場所である今に浸ろうとするライブには、ぴったりの楽曲である。

そして、8曲目の「はるかな国から」は、いじめられた少年の自殺を取り上げた作品。
描かれるのは、誹謗中傷に苦しむ人たちへのメッセージ。
どんなことがあっても、決して死んではならない。季節とともに服を着替えるように、生きやすい環境を見つけて、生きよう。
長い目で見れば、誹謗中傷は、一時的なものだし、逃げ道はあるのだから。
暗いニュースを題材にしながら、明るく前向きな楽曲に仕上げた名曲だ。

9曲目の「you&me」は、女性ボーカルを擁したライブでは、期待してしまう楽曲。
この曲をデュエットしてきた歴代の女性ボーカルに引けを取らない藤田真由美の愛らしく透き通った歌声は、この楽曲によく合う。

10曲目の「はじまりはいつも雨」は、言わずと知れたASKAの代表曲。今年の3月に発売30周年を迎えて、ファンからの発信で「#はじまりはいつも雨を語ろう」という企画が広がり、発売日の3月6日には、Twitterのトレンド入りを果たした。
雨の暗いイメージを大きく覆し、平成最大のヒット曲の呼び声が高い。いろんな角度から分析すると、J-POPの歴史さえ変えた名曲であることが明らかになってくるので、これからも多くの人々に愛され続けるのだろう。

11曲目の「冬の夜」は、私が最初に聴いたときに涙が溢れてしまった曲だ。
デビュー当時の楽曲をデビュー当時と同じような弾き語りで歌う。しかも、デビュー当時と同じ歌い方で。
歌声が完全に復活したおかげで、デビュー当時とそん色ない若さの声が出ている。

よくここまで声を戻してくれたものだ。
そう思ったら、涙が出てきたのだ。

この曲は、CHAGE and ASKAとして発表したものの、ASKAが1人で歌い上げており、実質ASKAのソロと言ってもいい。
当時、チャゲアスのライブ再開を宣言しながらも、ASKAは、その後はソロとしてやっていく決意を固めていたのだと思う。

12曲目の「水ゆるく流れ」は、全曲に続くゆったりとした曲調。川の水が緩やかに流れていく様子を表したかのようなメロディーとリズムだ。
仲間を生んでくれた親への追悼を音楽で見事に表現してくれている。その世界が涙を誘う楽曲だ。

そして、13曲目は「けれど空は青」。親友への愛情と激励を歌った、人気ナンバー1の名曲は、ライブでも圧倒的な存在感を持つ。

そこから、14曲目に正反対の楽曲「KicksStreet」を入れてくるところがASKAらしい。
変幻自在のステージは、1曲毎に大きく印象を変えながらクライマックスへと向かっていくのだ。

このライブツアー後、ASKAには薬物疑惑が取り沙汰されたが、私は、ASKAが直前のライブで「KicksStreet」を歌っているのだから、疑惑はデマに違いない、と信じていた。
その信頼は、はかなくも裏切られてしまったわけだが、ASKAも、このときは自らから薬物を遠ざけようともがいていた時期だったのかもしれない。

そこから15曲目は、また正反対の楽曲「LOVE SONG」を歌い上げる。CAHGE and ASKAの大ヒット曲で、ソロでも頻繁に歌っているので、ASKAがこれまで最も歌ってきた楽曲かもしれない。

先日のねとらぼ調査隊『CHAGE and ASKAの一番好きなシングルはなに?』アンケートでは、見事1位に輝いた。

当時のタテ乗りロック一辺倒の世間へのアンチテーゼであり、ファンへのラブソングでもあり、デビッド・フォスターの音楽を知って音楽観が大きく変わった楽曲でもある。

CAHGE and ASKAの楽曲を歌った後の16曲目は「L&R」。CHAGE and ASKAの活動休止時の心境を歌っている。別々の道を進みながらも、いつかまた2人でステージに並び立とうという想いを世間に伝えた。

その並び立つ瞬間がすぐ近くに迫っていただけに、その後の3年半の空白で、その瞬間が消失してしまったのも今となっては淡い思い出だ。

17曲目は、盛り上げ曲の「バーガーショップで逢いましょう」。
歌声が完全復活しただけに、コーラス隊やクラッシャー木村がステージ上を走り回って大いに盛り上がり、ライブは、一気に最高潮を迎える。

畳みかけるように18曲目は、ライブの盛り上げには欠かせない「晴天を誉めるなら夕暮れを待て」。
ASKAの歌声は、さらに迫力を増して、史上最高の出来栄えではないか、と言えるほどのステージを見せていく。

通常ならこの辺で「月が近づけば少しはましだろう」が来るのだが、このライブでは、ライブ本編のラストを飾るのは、当時の最新アルバムからの2曲。

僕の来た道」と「いろんな人が歌ってきたように」。

僕の来た道」は、2018年のライブ活動再開後もまだ歌ってない曲なので、現状では唯一のライブ音源。
私の中では、トップクラスに好きな楽曲だけに、映像化されて歓喜の極みだ。
まるで長詩を朗々と歌い上げているかのようなASKAの抒情と迫力は、唯一無二なので、その魅力が存分に味わえるこの曲は貴重だ。
この曲は、ASKA自身がのちにチャゲアスのことを歌っていることを明かした。おそらく、次、この楽曲を披露するのは、きっとチャゲアスが復活するときだろう。

本編のラストを飾るのは、「いろんな人が歌ってきたように」。ASKAは、今が一番いい、と体現するかのように、新しい曲をライブ本編のラストに持ってきた。
とても勇気がいるセットリストではあるが、ASKAが作り上げる新曲は、いつも自己ベストを更新するくらいの名曲に仕上げてくる。

この楽曲は、すべてのことは自分の心の持ち方次第であり、世の中への関わり方も自分の心にある愛次第なのだ、という普遍を描く。
まさに、ラストを飾るにふさわしいではないか。

本編が終わっても楽しみは続く。

カバーシリーズとして、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」。都会へ出た男性と、その男性を遠くで思う女性の想いを交互に歌った名曲。
のちに「no no darlin'」のモチーフになったという逸話もある。
数ある昭和の流行歌の中で、オリジナリティー溢れる楽曲の構成に目をつけるところがASKAならではだ。

アンコールのラストを飾るのは「同じ時代を」。テーマとしては、「UNI-VERSE」と共通点が多い楽曲だ。

当時は、東日本大震災直後だっただけに、同じ時代を共に生きる、という気持ちで国民が1つになった時期だった。
この楽曲を歌う前のASKAのMCからも、復興に向けて力になりたい、という気持ちが溢れている。
あれから10年がたって、今度はコロナ禍に見舞われた今、当時のライブ映像が再び大きな意味を持って迫ってくる。

今を生きる人々が後世に向けて残すべきもの、すなわち後世に誇れるものを、記録として、形としてしっかり残していこう。
そんな強いメッセージが感じられるのだ。

全編を視聴し終えてみると、やはり当時のASKAの集大成のライブだったと言わざるを得ない。

その後、予定していたチャゲアスのライブは消滅し、ASKAソロのライブ活動も3年半の空白を余儀なくされた。
もしそれらが無事に開催されていたとしたら、どんな現在を迎えていたか。

そんな実現しなかった、もう1つの未来を想像してみたくなった。