J-POP レビューステーション

音楽の言語化をテーマに、J-POPの名曲やアーティストをレビューするブログです。

あいみょん「君はロックを聴かない」を聴いて「君」が誰かを考えてみた

「最近、めっきり音楽を聴かなくなったんだよね」
子ども2人を育てる知人がそう言っていた。
日々の生活に追われて、音楽を聴いている時間がとれないのだという。

衣食住と違って、音楽は、なくても生きてはいける。
「最近、めっきり食べ物を食べなくなったんだよね」
と、言う人はいない。食べなければ生きていくのは不可能だから。

衣食住以外の芸術やスポーツ、テレビやスマホ、パソコン、本なんかも、生きることだけが目的なら、なくても支障がない。
でも、なくてもいいものであったとしても、音楽があれば、人生が遙かに豊かになる。

 

どうしてそんな気持ちになったかと言えば、ASKAさんのFellows作詞作曲企画でお馴染み畑中摩美さんがあいみょんさんの「君はロックを聴かない」をカバーしたからだ。

「君はロックを聴かない」は、あいみょんさんがブレイクする前のシングルだ。
オリコン最高76位だが、あいみょんさんのブレイク後、世間から高く評価されるようになり、YouTubeだけでも約7000万回を記録している。

畑中摩美さんは、最近、あいみょんさんの弾き語りカバー曲を続々とYouTubeにアップして、人気急上昇中だ。ギターコードが分かるとともに、あいみょんさんの15年後は、こんな感じじゃないかな、と想像できる歌唱がいい。

「君はロックを聴かない」は、ロック好きな男性主人公がロックを聴かない「君」にロックを聴かせるストーリーだ。

音楽を聴く人でロックだけ聴かないって人は、ほとんどいないだろうから、「君」は、音楽自体に興味がないのだろう。

でも、男性は、子どもの頃からロックが大好きで、恋をして挫折したとき、いつもロックを聴いて乗り越えてきた。

だから、おそらく恋をして挫折をしている「君」に、自分が乗り越えてきたロックを聴かせて励ましたい。

ところで、「君」とはいったい誰なのか。

この曲は、あまりにもメロディーが素晴らしいので、歌詞を深く考えずに、ロック好きな男性からロックを聴かない女性へのラブソングの感覚で聴いていた。

しかし、歌詞に出てくるドーナツ盤は、いわゆるシングルレコード盤だ。
CDの登場とともに姿を消したシングルレコード盤を聴いていた世代だから、1980年代以前に青春を迎えていた男性が主人公なのだ。

とすると、子どもがそろそろ青春時代を迎える年齢。

しかも、ロックを聴かない子どもだから、男の子というよりは女の子の可能性がかなり高い。
男の子だったら「お前」と表現しそうなものだから、「君」は女の子の方がしっくりくる。

そう考えると、私がたどりついた結論が「君」は、男性主人公の思春期を迎えた実の娘となる。

男性の娘は、熱い恋をしていたものの、失恋してしまい、最近、少し寂しそう。
男性は、父親としてそんな娘が心配でならない。
そんなとき、男性は、自らが青春時代、ロックを聴いて失恋を乗り越えてきたことを思い出す。そして、今は、妻子がいて幸福を感じている。

だからこそ、男性は、青春時代の自分と同じように、娘にロックを聴いてもらい、元気を取り戻してほしい。
ロックがまるで恋人のように、いつも近くで寄り添ってくれることを知ってほしい。

男性は、娘がロックなんて聴かないことを知っていながら、子どもを想う親心を抑えられなくて、自らの失恋を癒してくれたロックのシングルレコード盤を取りだしてきて、娘に聴かせるのだ。

父親から娘への、あまりにも不器用で極上の愛情表現ソングではないか。

そこで、あいみょんさんのオリジナルバージョンを聴いてみる。

あいみょんさんは、若いので、軽く聴いていると父親が歌っているという想像をしにくいのだが、歌詞をしっかり覚えてから聴くと、父親が歌っているように聴こえてくるから不思議だ。

もしかしたら、これは、あいみょんさんの父親とあいみょんさんの実話なのかもしれないな、と思ってみたりする。

畑中摩美さんとあいみょんさんの「君はロックを聴かない」をそれぞれ聴きながら、いろいろ考えを巡らせて楽しめる「音楽」は、やはりある方がいい。