J-POP レビューステーション

音楽の言語化をテーマに、J-POPの名曲やアーティストをレビューするブログです。

ASKAサプライズ『ありったけ』ツアー映像全曲公開!(前編)

ASKAさんの思い切った企画には、いつも驚かされますが、今回は最大級です!
何と、YouTubeにありったけツアーの全曲を公開!

自由なDADAレーベルだからこそできるエンターテイメント。世界がこんな状況だからこそ、ワクワクするサプライズ。
これぞ、アーティストです。

しかも、ASKAさんは、CHAGE and ASKAの映像作品公開も計画中とのこと。
『DOUBLE』ツアーの「PRIDE」や『alive in live』の「RED HILL」が世界に向けて公開となるかも。
期待が膨らみます。

当ブログでは、『ありったけ』ツアーの公開映像を、私のレビューと重ねながらご紹介します。
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 『40年のありったけ』という副題を掲げたASKAの復活バンドツアー。
 映像の収録会場となった日本武道館には、やはり「戻ってきた」という表現がふさわしい。
 3年前は、まさかここまで復活するとは想像すらしなかった。
 劇的な復活を果たしただけに、還暦を意識した赤いスーツで武道館の舞台に立つASKAが登場しただけで、こみ上げてくるものがある。

 この日の日本武道館は、東京五輪をイメージした新曲をオープニングで流すせいか、日の丸の国旗を掲揚している。
 おかげで、ライブが進むにつれ、私の目には、まるで日本代表音楽チームがライブをやっているかのように見えてきた。
 それほど、『40年のありったけ』は、濃密な40年が詰まったライブだった。

 その濃密さを予兆させてくれるのが1曲目の「未来の勲章」だ。ASKAが事件後、初めてファンの前に姿を現したときに披露した記念すべき曲である。
 観客300人を集めて行ったMV撮影時の感動が鮮やかによみがえってくる。
 あのMV撮影は、新しい試みとして、YouTubeで世界に向けて生中継をした。画面の前でASKAが登場するまでの1時間、今か今かと待ち続けた緊張が昨日のことのようだ。

 やはりバンドライブは、ASKAの歌唱が通常モードになっているから、違和感がない。前回のビルボードクラシックでは、ゲストボーカリストとしてオーケストラの演奏に合わせた歌唱になっていたから、どうしても違和感が拭えなかった。
 ASKAの歌唱を最大限に引き立ててくれるASKAバンドメンバーが戻ってきてくれたのも心強い。

 2曲目の「ONE」は、チャゲアスブームの真っ最中に、CHAGE and ASKAの活動を休止してソロ活動に入ったASKAが制作したアルバム『ONE』のタイトル曲だ。
 思えば、現在のソロ活動の源流がこのアルバムにはある。今となっては感慨深いターニングポイントである。


 3曲目の「明け方の君」は、CHAGE and ASKAでダブルミリオンを達成した伝説のアルバム『TREE』の収録曲だ。
 今回のライブでは、Cメロの印象的なメロディーを歌いだしに持ってきている。楽曲の最高のメロディーを歌いだしで披露すると、楽曲の印象は、こんなにも鮮やかに変わる。
 曲は、制作者が最初に発表した原曲が完成ではなく、音楽活動を続けている中でどんどん形を変えて、完成に近づいていくものなのだ。

 そして、ギターを抱えて歌うASKAの仕草は、以前と全く変わらない。長渕剛は、ギターをまるで相棒のように扱うが、ASKAは、ギターをまるで曲に登場する女性のように扱う。
 今回のライブでは、ギターが赤なので余計に、女性のように見えてくる。

 4曲目は、ファンの間で人気が高い「cry」。この曲を聴くと、私は、ライブツアー『My Game is ASKA』を思い出す。あのときASKAバンドに加わったバイオリンによって、「cry」だけではなく、数々の曲の幅が格段に広がった。
 あのライブで、ASKAは、バイオリニストのクラッシャー木村を起用し、その後、ASKAバンドのライブにバイオリンが欠かせないパートとなっていくのだ。


 5曲目は、古川昌義のギター演奏が光る「Girl」。歌声よりも雄弁に語るギターに、高い技術と表現力が堪能できる。今回のアレンジは、ギターソロだけでも曲が成り立つのではないかとさえ感じるほどの濃密度である。
 それに加えて、今回はクラッシャー木村の情緒的なバイオリンまで加わって、楽曲がさらに雄弁になっている。

 そして、6曲目は、昨年に配信発売となり、CHAGE and ASKAのことを歌っていると話題になった「憲兵も王様も居ない城」。
 現在の自らの内面を吐露する曲だけに、ASKAのシャウトにも魂が籠る。
 この曲の間奏とアウトロに「恋人はワイン色」の歌唱を挟み込んできたのには驚いた。
 思えば、「恋人はワイン色」は、CHAGE and ASKAの集大成となったライブ『DOUBLE』の1曲目で披露した曲。こういったサプライズ演出に毎度遭遇するのも、ASKAライブの醍醐味である。

 7曲目の「Man and Woman」は、現在のところ、CHAGE and ASKAの最新シングルにして、澤近泰輔のピアノ演奏が光る、哲学的な詞の曲。思えば、「PRIDE」以降、澤近の制作するイントロとアウトロの魅力は、ASKAとの二人三脚によって、数多くの名曲を生み出し続けている。この曲は、その象徴である。

 8曲目にはデビュー15周年時のミリオンセラー「めぐり逢い」。CHAGEの歌唱がないとどうなるか心配になる曲だが、西司と藤田真由美が2人でカバーして違和感がないところまで仕上げている。

 9曲目に披露した「MOON LIGHT BLUES」は、ASKAが初めてピアノで作曲した記念すべき曲だ。決して大ヒットしたとは言い難い楽曲ではあるが、この曲をきっかけにASKAのメロディーは、飛躍的に洗練されていったように感じる。

 ASKAは、このライブの選曲を、世間でヒットした曲というよりは、むしろ40年間の中で、ターニングポイントとなった曲を中心に披露しているように感じる。
 そのせいか、1980年代以前の曲は、この「MOON LIGHT BLUES」と「LOVE SONG」の2曲にすぎない。

 10曲目に披露したのは、「大きく見て、世間に認められるきっかけとなった曲」とASKAが語る名曲「はじまりはいつも雨」。
 思い返せば、この曲のミリオンセラー達成からチャゲアスブームが始まった。メロディー、詞、リズム、歌唱表現力、アレンジのすべてが完璧にはまった大名曲だ。
 メロディーの秀逸さとともに、雨のイメージを不幸から幸福に大きく覆した詞の世界は、私も大きな衝撃を受けた。

 そして、事件前の集大成とも言える曲「いろんな人が歌ってきたように」。この曲発表後の事件のせいで、あまりこの曲が世間には広まっていないが、愛と人間の本質に迫った、まぎれもないASKAの代表曲である。


(後編に続く)