J-POP レビューステーション

音楽の言語化をテーマに、J-POPの名曲やアーティストをレビューするブログです。

ASKA新曲「自分じゃないか」レビュー

ASKAさんの3週連続新曲リリースの2曲目「自分じゃないか」が昨日、発売となりました。
ASKAさんが「ライブでひとつになれる曲」と明かしていた曲です。
これは、ライブの最高潮で披露される楽曲になっていくでしょうね。

e-onkyo「Weare」 ASKA「自分じゃないか」

www.e-onkyo.com


ASKA「自分じゃないか」レビュー

「自分じゃないか」は、前曲「幸せの黄色い風船」に引き続いて、新型コロナウイルス感染拡大中の世相を反映した楽曲だ。

国は、緊急事態宣言の外出自粛をはじめとして、国民に新たなルールを押し付けようとしてくる。

私は、化学物質アレルギーで10年ほど前から建物の中では基本的にマスクをしている。
そのため、仕事の打ち合わせや店では、理由を説明しないと嫌な顔をされたりすることもあったが、今年に入ってからは、その価値観が180度変わってしまった。マスクをするのがマナーへと。

逆にマスクをしてない人が嫌な顔をされ、理由を説明しなくちゃいけない。
世間の常識なんて、たった1つの出来事だけで、いとも簡単に覆ってしまう。そんな経験を私たちは、今まさにしているのだ。

マスクは、ほんの一例にすぎないが、全国の様々な分野でパラダイムシフト(価値観の劇的な変化)が起きている。

音楽も、例外ではなく、ライブは、大勢の観客と一緒に楽しむものであったはずなのに、今は、無観客配信でチャットをしながら楽しむもの、に変貌した。

ASKAは、10年後、20年後の世界を常に想定しながら考えを巡らせている人で、音楽業界でも一歩先のスタンダードを次々と作りだしてきた。

そのため、今回の新型コロナウイルス禍中も、VRのMV有料配信という新たな試みを行おうとしている。

ASKAは、自由なDADAレーベルを立ち上げたことからも分かるとおり、押し付けられた価値観に常に疑問を持ち、自らが新たな価値観を創造しようと試みることも多い。

「自分じゃないか」は、まさにその理念を歌いあげた楽曲だと思う。

イントロと歌い出しを聴くと、少しダークなダークなロックである。
現在の沈み込んだ社会を反映しているかのように。

堀江貴文は『今の「常識」は、フィクションでしかない』と断言しているように、ASKAもまた、今の常識を信じる危うさを語りかけるように歌う。

そのままダークなサビになるのかと思いきや、サビでは一気に爆発的な発散が起きる。
サビで描かれるのは「七つの星」。
地球を取り巻く太陽系の惑星を指すのだという。
水星、金星、火星、木星土星天王星海王星

サビのスケールは、もはや宇宙規模にまで発展している。
宇宙規模で見ると、地球だけがいつも迷走しているように見える。

どうしても変えられない宿命、自然環境、他人。

想定外の事態が起きたとき、対処するのは結局自分なんだ。
そんな強い達観が伝わってくる。

1番と2番の間は、コーラスが間奏のメインとなり、2番ではAメロが1番とは全く別の歌のようにメロディーを変えて、力強さと明るさを増している。

そして、この曲には、ASKAの代名詞とも言える明確なCメロがない。2番のサビの最後に「自分じゃないか」を繰り返すところがCメロと呼べなくもないが、いつものCメロとは大きく異なる。
むしろCメロを担っているのは、間奏の自分を高揚されるかのようなメロディーだろう。

そして、大いに盛り上がる大サビの後、アウトロの演奏がない。ASKAの歌声で楽曲が終わるのだ。

アウトロがないため、最後のフレイズ「自分じゃないか」がずっと強く耳に残り続ける。ASKAの最近の楽曲で言えば「それでいいんだ今は」が記憶に新しい。
極めて効果的に、「自分じゃないか」というフレイズを使っている。

ASKAは、2012年に楽曲「いろんな人が歌ってきたように」で「すべては自分さ」「自分次第さ」と歌っている。
そのテーマが今回の「自分じゃないか」に受け継がれているように感じる。

「Fellows」と「月が近づけば少しはましだろう」。「愛温計」と「はじまりはいつも雨」。

ASKAは、しばしば過去の楽曲のテーマを受け継いで、そのときそのときの時代に適応した音楽を作り上げていく。

この楽曲は、ASKAが「いろんな人が歌ってきたように」から8年を経て、今の世相に合わせてテーマを引き継いだと言えるだろう。

すべては自分に行きつく。ロックでありながら、哲学的な響きさえ感じられる名曲である。