J-POP レビューステーション

音楽の言語化をテーマに、J-POPの名曲やアーティストをレビューするブログです。

才能あるアーティストは、誹謗中傷とどう向き合ってきたか

先週の記事に、多大な反響ありがとうございました。
誰しも、誹謗中傷を避けては通れないのだ、と改めて強く感じました。

あのイチロー選手ですら、前人未踏の日米通算4257安打を達成したときの会見で、過去に誹謗中傷を受けてきた経験を語っています。
「小学生の頃に毎日野球を練習して、近所の人から『あいつプロ野球選手にでもなるのか』っていつも笑われていました」
と。

誹謗中傷していた人たちも、まさか将来、世界一の選手になるとは夢にも思っていなかったでしょう。世間で噂される言葉なんて、その程度の浅はかさなのです。

でも、若い頃は、そういった誹謗中傷をうまくスルーできず、心にため込んで、苦しみがちです。

そう考えていたら、気になり始めました。
才能あるアーティストたちは、今まで誹謗中傷とどう向き合ってきたのか、と。

最初に浮かんだのが長渕剛さんの初期の名曲「顔」。

長渕剛「顔」

若き日の長渕さん自身が主人公でしょう。
生意気な奴だと笑われて相手にされない。仕方なく、偉い人に媚びて褒められた主人公は、そのとき鏡に映した自らの顔に恥を感じます。

そして、主人公は、誹謗中傷されても、いつか春が来ると信じて、自らの信念を曲げず、粘り強く生きていこう、と自らの心に誓うのです。

この歌を聴いていて、そういえば、チャゲアスも、若き日に受けた誹謗中傷を歌った名曲「歌いつづける」があるじゃないか、と気づきました。

チャゲ&飛鳥「歌いつづける」

この曲は、チャゲ&飛鳥のデビューが決まり、上京する前にASKAさんが制作してライブで披露しました。

「汚れた口の噂あるけど 気にしていたんじゃ歌えまい」
ここからは、当時、様々な誹謗中傷を受けていた状況が垣間見えます。

それでも、どれだけ叩かれようとも、常に全力で歌いつづけることによって、活路を開いてやる。
そんな意気込みが伝わってきます。

ASKAさんのFellows作詞作曲企画でお馴染み、畑中摩美さんも、受けてきた誹謗中傷を歌った名曲「棘の花」があります。

畑中摩美「棘の花」

世間や周囲からいろんな誹謗中傷を受けて傷ついた若手時代が映像のように浮かんできます。
軽い気持ちで投げかけられた言葉は、そのときはさほど痛くなくても、心の中でイバラのようにどんどん成長して、痛みが増していく。

前に進むには、刺さった棘を自分で抜かなきゃいけない。
若い頃に抜けなかった棘も、今なら抜ける。誹謗中傷で傷ついた自分を救い出すのは、成長した自分自身の確固とした信念のみだ。
そんな迫真の絶唱が沁み渡ります。

 

トゲノハナ

トゲノハナ

  • アーティスト:畑中摩美
  • 発売日: 2016/01/11
  • メディア: CD
 

 

そして、歴代最高の売上を更新し続けるアーティストB'z。
最近、彼らも受けてきた誹謗中傷を歌った名曲があることを知りました。
本家のライブ映像は緊急事態宣言解除で公開終了したので、畑中摩美さんによるカバーでご紹介。

B'z「あいかわらずなボクら」カバー/畑中摩美

1991年の作品ですから、B'zが大ヒットを連発し始めた頃ですね。
日本で最も成功しているアーティストB'zでさえ、「あいつはダメだ」と誹謗中傷を受けて、苦しんでいたんだ、と気づかされます。
でも、そんな誹謗中傷なんて、余計なお世話だ、と軽く返すところがB'zのぶれない信念でしょう。

いつでも正しい人なんて、この世にいないんだから、自分のやりたいことをやっていこう。
B'zが残してきた前人未踏の結果は、まさにこの楽曲が描く彼らの姿そのものです。


直接誹謗中傷を受けた、と歌っている曲でなくても、誹謗中傷を受けた苦悩を感じさせる楽曲があります。
2008年の紅白歌合戦レコード大賞で披露された森山直太朗さんの名曲「生きてることが辛いなら」は、衝撃でした。

森山直太朗「生きてることが辛いなら」

当時「いっそ小さく死ねばいい」という歌詞が物議を醸しましたね。
世間がその部分だけを話題にして、森山さん自身が激しい誹謗中傷を受けるという本末転倒な事態が起きました。

実際は、小さく死ぬっていう表現は、比喩なんですよね。
自らが置かれた環境、つまり誹謗中傷を受けている学校や家庭、職場から逃げて生き延びろっていう。
対義語としてきっと「大きく死ぬ」という本当の死があって、「小さく死ねばいい」というのは、死んではならない、というメッセージだと考えられます。

楽曲全体を通して聴くと、人生全体を俯瞰して、生きる価値を訴え続ける壮大なスケールであることが分かります。

 

Mr.Childrenにも、誹謗中傷が渦巻く社会の改善を真剣に考察する名曲「タガタメ」が存在します。

Mr.Children「タガタメ」

いつ子供たちが被害者になったり、加害者になったりするか分からない現代社会。
そうならないようにするために、自分たちは、一体何をすればいいのだろう。

主人公は、映画を見たがる彼女を制して、真剣に誹謗中傷が渦巻く社会の改善を考えようとします。
もはや祈るしかないのか。
考え疲れた主人公は、気分転換に広い公園へ散歩に出かけます。

そして、そこで、自分たちがかろうじて何が出来るかと言えば、「愛すこと以外にない」という結論に達するのです。


以上、日本を代表するアーティストたちが誹謗中傷と向き合ってきた名曲群でした。

多くの人々が楽曲を自らの境遇と重ね合わせることによって、救われているのではないでしょうか。
私は、これらの楽曲に、極めて高い価値を感じます。